専門家活用枠とは、事業承継・M&A補助金のうち、M&Aの専門家に支払う費用を補助する枠です。対象になるのは、仲介手数料やFA(ファイナンシャルアドバイザー)費用、デューデリジェンス(DD)費用といった支払いです。M&Aを検討するときに大きな負担になるのが、こうした専門家費用です。

この記事では、16次公募の公募要領(買い手支援類型・売り手支援類型/小規模売り手支援類型)の原文にもとづき、3つの類型の違いを整理しました。あわせて、実務で見落とされやすい「M&Aが成立しなかった場合に上限額が変わる」規定も解説します。制度全体(4つの枠)の概要は事業承継・M&A補助金とはをご覧ください。

  • 専門家活用枠は、買い手支援類型(Ⅰ型)・売り手支援類型(Ⅱ型)・小規模売り手支援類型の3類型です。買い手向けには、上限2,000万円の100億企業特例も別に公募されています
  • 補助率は買い手が2/3以内、売り手は1/2または2/3以内(条件で変わる・詳細)、小規模売り手は2/3以内です
  • 補助事業期間内にクロージングしなかった場合、補助上限額が変更されます。買い手・売り手支援類型は600万円→300万円、小規模売り手支援類型は450万円→50万円です
  • 買い手・売り手支援類型には補助下限額50万円があり、補助額が50万円を下回る申請は受け付けられません(小規模売り手支援類型には下限額なし)
  • FA・M&A仲介費用を補助対象にするには、「M&A支援機関登録制度」に登録されたFA・仲介業者である必要があります
  • 交付決定通知書を受理した後に着手(専門家との委託契約締結等)します。先に契約すると対象外です
事業承継・M&A補助金 専門家活用枠の記事でわかる3つのこと:買い手・売り手・小規模売り手の補助率と上限額の違い、M&Aが成立しなかった場合に上限額が下がる規定、仲介手数料を補助対象にするための登録業者の要件
図解:事業承継・M&A補助金 専門家活用枠で最初に押さえたい3つのポイント

3類型の補助率・補助上限額【比較表】

専門家活用枠の補助上限額は、買い手支援類型と売り手支援類型が600万円(DD費用の上乗せで+200万円)、小規模売り手支援類型が450万円です。補助率・下限額・クロージングしなかった場合の扱いも類型ごとに異なり、比べると次の表のとおりです。

項目買い手支援類型(Ⅰ型)売り手支援類型(Ⅱ型)小規模売り手支援類型
補助率補助対象経費の2/3以内補助対象経費の1/2または2/3以内(条件)補助対象経費の2/3以内
補助下限額50万円50万円なし
補助上限額600万円600万円450万円
DD費用の上乗せ+200万円+200万円なし(DD費用は上限450万円の範囲内で計上)
廃業費の併用申請+300万円+300万円+150万円
補助事業期間内にクロージングしなかった場合補助上限額を300万円に変更(原則DD費用のみ補助対象)補助上限額を300万円に変更(原則DD費用のみ補助対象)補助上限額を50万円に変更(着手金・システム利用料・DD費用を補助対象)

補助下限額の扱いも確認してください。公募要領は「交付申請時の補助額が補助下限額を下回る申請(補助対象経費に2/3または1/2をかけた金額が50万円を下回る申請)は受け付けない」と定めています。補助対象経費が小さいと、買い手・売り手支援類型では申請自体ができません。小規模売り手支援類型には、この下限額の定めがありません。

廃業費には条件があります。公募要領は「廃業費に関しては、関連する経営資源の引継ぎが補助事業期間内に実現しなかった場合は補助対象外とする」と明記しています。廃業費だけを当てにした計画は成り立ちません。

なお買い手支援類型(Ⅰ型)は、PMI推進枠(PMI専門家活用類型)との同一公募回での申請(同時申請)が可能です。

買い手向けの別枠「100億企業特例」

将来の売上高100億円を目指す買い手には、補助上限額を2,000万円とする「買い手支援類型(100億企業特例)」があります。通常の買い手支援類型とは別の公募要領で公募され、補助率も要件も異なります。

項目内容
補助率1,000万円以下の部分は1/2、1,000万円を超えて2,000万円までの部分は1/3
補助下限額50万円(補助対象経費に1/2をかけた金額が50万円を下回る申請は受け付けない)
補助上限額2,000万円(補助事業期間内にクロージングしなかった場合は300万円に変更、原則DD費用のみ補助対象)
廃業費の併用申請+300万円(廃業費の補助率は1/2以内)

主な要件は次の3つです。

  • 承継者から被承継者に支払われる最低譲渡価額が5億円以上であること
  • 公募申請時に、補助事業者の「100億宣言」が「100億企業 成長ポータル」で公表されていること
  • 被承継者の従業員の雇用を3年間維持すること(承継者の責によらない場合を除く)。会社都合で維持されていないと確認された場合は、従業員数の減少率に応じて返還を求められます

通常の買い手支援類型・売り手支援類型(DD費用の上乗せを含めて補助上限額800万円とする公募)とは、同じ公募回で申請できません。不採択になっても、通常の買い手支援類型には移行しません。公募要領は、補助対象事業の金額が少額の場合は特に、制度の違いを確認して類型を選ぶよう求めています。

売り手の補助率が1/2と2/3に分かれる条件

売り手支援類型(Ⅱ型)の補助率は、営業利益率が低下している場合か、直近決算期が赤字の場合に2/3以内になります。どちらにも該当しない場合は1/2以内です。公募要領が定める①②の条件は、次のとおりです。

① 物価高等の影響により、営業利益率が低下している者

具体的には、直近の事業年度(申告済み)および申請時点で進行中の事業年度において、

  • (1)直近の事業年度(申告済み)と2期前の事業年度(通年)
  • (2)直近の事業年度(申告済み)および申請時点で進行中の事業年度のうち、それぞれ任意の連続する3か月(当該期間の前年度同時期)の平均

上記(1)(2)のいずれかの期間における営業利益率を比較した場合に、低下していること。

② 直近決算期の営業利益または経常利益が赤字の者

①②のどちらにも該当しない場合、売り手の補助率は1/2以内です。補助率が1/2か2/3かで手残りが大きく変わるため、申請前に自社の決算数値で該当有無を確認してください。2/3以内での申請を希望する場合は、公募要領が指定する必要書類の提出が求められます。

買い手支援類型・小規模売り手支援類型には、このような補助率の分岐はなく2/3以内です。

先に確認:対象外になる要件

申請前に確認する要件の図解。主な項目:交付決定通知書の受理前に専門家と契約した経費は対象外、FA・仲介業者はM&A支援機関登録制度への登録が必要、登録業者が補助事業者なら、自社や関連会社には委託できない、申請時点で3期分の決算・申告が終わっていない法人は対象外
図解:申請前に確認する要件で押さえたいポイント

専門家活用枠では、交付決定前に専門家と契約した経費は対象外です。FA・M&A仲介費用も、M&A支援機関登録制度に登録された業者への支払いでなければ補助対象になりません。M&Aという取引の性質上、他の補助金にはない固有の要件があるため、計画を立てる前に次の点を確認してください。

  • 交付決定通知書を受理した後に補助事業へ着手します(専門家との委託契約締結等)。公募要領は補助対象経費について「契約・発注が交付決定日以降かつ補助事業期間の間であり、支払いまでが同期間であること」を求めています。先に契約してしまうと対象外です
  • FA・M&A仲介費用を補助対象経費とする場合は、利用したFA・仲介業者が「M&A支援機関登録制度」に登録されている必要があります。登録の要件確認は交付決定時に行われます。あわせて、事務局からM&A支援機関登録制度事務局への情報提供、および登録FA・仲介業者による実績報告がなされることへの同意が必要です
  • M&A支援機関登録制度に登録されたFA・仲介業者、またはその法人の代表者が補助事業者となる場合は、自己またはその関連会社をFA・M&A仲介等の委託先とすることはできません(公募申請時に他の業者へ委託する理由を求められる場合があります)
  • 過去の「経営資源引継ぎ補助金」または「事業承継・引継ぎ補助金」の受給者は、期日までに事業化状況報告を適切に実施していることが要件です。報告義務があるのに提出しなかった者は対象外です
  • 公募への申請時点で3期分の決算および申告が完了していない法人は対象外です

申請単位の制限もあります。同一の補助対象事業において、買い手支援類型(Ⅰ型)・売り手支援類型(Ⅱ型)はそれぞれ1申請とされ、同一の者による複数の申請は不可(原則1申請のみ)です。

みなし大企業・過去の受給歴など、制度全体に共通する対象外規定は制度ガイドの対象外の章で整理しています。

デューデリジェンス(DD)費用の扱い

デューデリジェンス(DD)費用は専門家活用枠の中核となる経費で、買い手支援類型・売り手支援類型では補助上限額に+200万円の上乗せがあります。

公募要領は、中小M&Aガイドライン第3版を引用してDDを定義しています。対象企業である譲り渡し側における各種のリスク等を精査するため、主に買い手がFAや士業等専門家に依頼して実施する調査のことです。財務DD・法務DDが一般的で、ほかにビジネスDD・税務DD・人事労務DD・知財DD・環境DD・不動産DD・ITDDなどがあるとされています。

DDで実務上気をつけたいのは提出書類です。補助対象経費にDD費用を計上する場合は、交付申請時に実施予定のDDの見積書が、実績報告時に証憑が求められます。一方、買い手支援類型では、補助対象経費への計上の有無を問わずDDを実施することが求められています。DDを計上しない場合は、実績報告時にDDの実施証憑の提出が求められます。

買い手支援類型・売り手支援類型では、補助事業期間内にクロージングしなかった場合に原則としてDD費用のみが補助対象として認められ、補助上限額が300万円に変更されます。小規模売り手支援類型では、同じ場合に着手金・システム利用料・DD費用が補助対象として認められ、補助上限額が50万円に変更されます。

M&Aの形態ごとの申請類型

専門家活用枠では、M&Aの形態によって申請する類型番号が決まります。公募要領「6.2 M&A形態に係る区分整理」をもとに、類型ごとの補助対象者とM&Aの形態を表にまとめました。

買い手支援類型(Ⅰ型)

補助対象者M&Aの形態
承継者(法人)株式譲渡/第三者割当増資/株式交換/吸収合併/吸収分割/事業譲渡
承継者(個人事業主)株式譲渡/第三者割当増資/事業譲渡

売り手支援類型(Ⅱ型)

補助対象者M&Aの形態
対象会社+対象会社の支配株主または株主代表(法人・個人)株式譲渡/株式譲渡+廃業
被承継者(法人)第三者割当増資/株式交換/株式移転/新設合併/吸収合併/吸収分割/事業譲渡/事業再編等+廃業
被承継者(個人事業主)事業譲渡/事業再編等+廃業

自社のM&Aの形態がどの類型に当てはまるかで、申請できる区分が変わります。株式譲渡なのか事業譲渡なのか、買い手・売り手のどちらで申請するのかを、スキームが固まった段階で確認してください。売り手支援類型(Ⅱ型)の株式譲渡には、公募要領が定める(1)〜(17)の要件を満たすことが別途求められます。

申請スケジュール(16次公募)

専門家活用枠の16次公募の申請受付は、2026年10月2日から11月6日17:00までです。申請はJグランツによる電子申請のみで、GビズIDプライムアカウントが必要です。

項目日程
公募要領の情報開示2026年9月4日(金)〜
申請受付期間2026年10月2日(金)〜2026年11月6日(金)17:00(厳守)

この日程は4つの枠すべてで共通です。専門家活用枠では認定経営革新等支援機関の確認書は必須とされていませんが、専門家費用の相見積り(原則2者以上)の準備に時間がかかります。申請受付は2026年10月2日に始まりました。締切から逆算して、FA・仲介業者がM&A支援機関登録制度に登録されているかの確認と、見積りの取得を早めに進めるのが実務的です。

GビズIDプライムの発行までの目安は、公募要領では1週間から2週間程度(混雑時は3週間程度)です。GビズIDの公式サイトでは、マイナンバーカードを使うオンライン申請なら最短で即日(FAQの比較表では即日〜数日)です。書類郵送申請は、書類に不備がない場合で最大1か月です(2026年7月9日に最大2週間から変更)。書類郵送申請になる場合は、1か月を見込んで逆算してください。

補助金の交付は、補助対象事業完了後の精算後の支払い(実費弁済)です。専門家への支払いは先に自社で行う前提で、資金繰りを組んでください。

よくある質問

Q. M&A仲介会社に払う手数料は、どこまで補助対象になりますか?

補助対象にするには、仲介会社が「M&A支援機関登録制度」に登録されていることと、交付決定日以降の契約・発注であることが前提です。登録の確認は交付決定時に行われます。交付決定前に締結した契約は対象になりません。個別の費目がどこまで認められるかは、公募要領「9.補助対象経費」で費目ごとの定めを確認してください。

Q. M&Aが途中で破談になったら、補助金はどうなりますか?

どの類型でも、補助上限額が下がります。公募要領は、補助事業期間内に経営資源の引継ぎが実現しなかった場合(クロージングしなかった場合)に、補助上限額を変更すると定めています。買い手支援類型(Ⅰ型)・売り手支援類型(Ⅱ型)は600万円→300万円に変更され、原則としてDD費用のみが補助対象として認められます。小規模売り手支援類型は450万円→50万円に変更され、着手金・システム利用料・DD費用が補助対象として認められます。廃業費は、関連する経営資源の引継ぎが補助事業期間内に実現しなかった場合は補助対象外です。

買い手支援類型には、さらに厳しい規定もあります。相手方の責によらず、申請者の一方的な自己都合で引継ぎが実現しなかったと事務局が判断した場合は、すべての経費が補助対象外です。補助金の交付後でも、交付決定が取り消される場合があります(災害など事業者の責めに帰することができない理由がある場合を除く)。

Q. 売り手ですが、補助率2/3で申請できますか?

はい、次の①②のいずれかに該当すれば2/3以内で申請できます。①物価高等の影響により営業利益率が低下している、②直近決算期の営業利益または経常利益が赤字、の2つです。①の比較期間は、次のいずれかです。

  • 直近の事業年度と2期前の事業年度(通年)
  • 直近の事業年度および進行中の事業年度のうち、任意の連続する3か月(前年度同時期との比較)の平均

どちらにも該当しない場合は1/2以内です。2/3以内での申請を希望する場合は、公募要領が指定する必要書類の提出が求められます。

Q. 買い手と売り手が両方この補助金を使えますか?

組み合わせられるかどうかは、取引のスキームと当事者によって変わります。買い手支援類型(Ⅰ型)と売り手支援類型(Ⅱ型)は別の類型で、それぞれ補助対象者が異なります。公募要領は同一の補助対象事業において各類型それぞれ1申請とし、同一の者による複数の申請は不可(原則1申請のみ)としています。自社の取引でどの類型が該当するかは、当社からご提案します(補助金のご質問はLINEでも受け付けています)。枠の併用可否の全体像は制度ガイドの併用の章にまとめています。

Q. 補助対象経費が少額でも申請できますか?

類型によって異なります。買い手支援類型・売り手支援類型には補助下限額50万円があり、補助対象経費に2/3または1/2をかけた金額が50万円を下回る申請は受け付けられません。一方、小規模売り手支援類型には補助下限額の定めがありません。小規模な案件は、この類型に該当するかを先に確認してください。

まとめ:類型の選択と「成立しなかった場合」を先に想定する

  • 専門家活用枠は3類型。補助率は買い手2/3以内、売り手1/2または2/3以内、小規模売り手2/3以内
  • 売り手の補助率は、営業利益率の低下または直近決算期の赤字で2/3に上がる。該当有無を決算数値で先に確認する
  • クロージングしなかった場合に補助上限額が変更される(買い手・売り手600万円→300万円、小規模売り手450万円→50万円)。破談の可能性を織り込んだ資金計画にする
  • 将来の売上高100億円を目指す買い手向けに、上限2,000万円の100億企業特例がある(最低譲渡価額5億円以上・雇用維持3年など独自の要件。通常類型と同じ回には申請できない)
  • 補助下限額50万円があるため、小規模案件は小規模売り手支援類型の該当可否を確認する
  • FA・仲介業者はM&A支援機関登録制度への登録が前提。自己・関連会社への委託は不可
  • 交付決定通知書の受理後に着手。先に契約すると対象外。交付は完了後の精算払い(実費弁済)

自社のM&Aスキームでどの類型に当てはまるか迷う場合は、どの制度・類型が該当するか、申請条件に合うかを当社からご提案します。補助金かんたん診断もご利用ください。補助金のご質問はLINEでも受け付けています。制度全体の4つの枠は事業承継・M&A補助金とは、補助金申請全体の流れは補助金申請の流れで解説しています。

参考(一次情報)

※公募要領は「M&A支援機関登録制度」のURL(ma-shienkikan.go.jp)を案内していますが、当サイトの確認環境からは接続できずリンク先の到達確認ができなかったため、リンクは掲載していません。登録業者かどうかは、依頼先のFA・仲介業者に登録の有無を直接確認するか、事業承継・M&A補助金の公式サイトからたどってください。