人材開発支援助成金とは、従業員に業務に関連した研修(職業訓練)を実施した事業主に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する厚生労働省の助成金です。「研修費 助成金」「社員教育 補助金」と探して見つかる制度の多くは、この人材開発支援助成金にあたります。要点は次の4つです。

  • コースは全部で7つあり、代表的なのは10時間以上のOFF-JT(座学研修)などを対象にした人材育成支援コースです。障害者職業能力開発コースは令和6年度からJEEDの助成金へ移管済みで、申請先は労働局ではありません
  • 人材育成支援コースの経費助成率がもっとも高いのは、正社員転換を目的とした有期実習型訓練の場合で、最大75%(賃金要件等を満たすと100%)です
  • 労働保険料の未納・労働関係法令違反・倒産などがあると、そもそも支給対象外になります
  • 人への投資促進コース・事業展開等リスキリング支援コースは、令和8年度末までの時限措置です

雇用形態の転換に使うキャリアアップ助成金 正社員化コースとあわせて使うと、支給額が上乗せされる場合があります。人を採用・育成するタイミングでは、両方を確認しておくと有利です。

人材開発支援助成金とはの記事でわかる3つのこと:7コースの違いと、人材育成支援コースの4メニュー、メニュー別の賃金助成額・経費助成率とOJT実施助成、対象事業主の要件と、支給されない典型パターン
図解:人材開発支援助成金とはで最初に押さえたい3つのポイント

人材開発支援助成金の7コース一覧

人材開発支援助成金は、目的の異なる7つのコースの総称です。次の表に各コースと対象になる訓練・制度をまとめました。自社の状況に近いコースから確認してください。

コース対象になる訓練・制度
人材育成支援コース10時間以上のOFF-JT、正社員転換を目的としたOJT+OFF-JT訓練など(後述)
教育訓練休暇等付与コース有給の教育訓練休暇制度(3年間で5日以上)を導入し、労働者がその休暇で訓練を受けた場合
人への投資促進コース高度デジタル人材訓練、定額制(サブスクリプション型)訓練、労働者が自発的に受けた訓練の費用負担など
事業展開等リスキリング支援コース新規事業展開・DX・GX化に伴って必要になる知識・技能の習得訓練
建設労働者認定訓練コース・建設労働者技能実習コース建設業の認定職業訓練・建設労働者の有給技能実習
障害者職業能力開発コース障害者職業能力開発施設の設置・運営(※令和6年4月からJEEDの「障害者能力開発助成金」へ移管。申請先は労働局ではありません)

(出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」制度概要ページ)

社員研修に使える制度を目的別に比べたい場合は、社員研修に使える助成金・補助金の早見表も参考になります。

※ 障害者職業能力開発コースは、厚生労働省の制度概要ページでは今も7コースの1つとして掲載されています。ただし同ページ(「令和6年4月から」)と同コースのページ(「令和6年度から」)はいずれも、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が支給業務を行う「障害者雇用納付金制度に基づく助成金」へ移管する旨を案内しています。厚生労働省のリーフレットによると、このコースは令和5年度をもって廃止され、令和6年4月からは「障害者能力開発助成金」として実施されています。助成対象や助成額・助成率は、原則として旧コースと同じです。申請先はJEEDの都道府県支部(高齢・障害者業務課。東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)で、労働局ではありません。令和6年3月31日までに労働局へ提出済みの事業計画書・受給資格認定申請にかかる支給等だけは、経過措置として引き続き労働局が扱います。

7コースのうち、もっとも申請件数が多く、幅広い業種で使えるのが人材育成支援コースです。この記事では人材育成支援コースを中心に解説します。

人材育成支援コースとは:4つのメニュー

人材育成支援コースとは、人材開発支援助成金のなかでもっとも申請件数が多いコースです。訓練の目的ごとに、次の4つのメニューに分かれます。

メニューどんな訓練が対象か
①人材育成訓練雇用保険被保険者に対する10時間以上のOFF-JT
②認定実習併用職業訓練OJTとOFF-JTを組み合わせた訓練(実習併用職業訓練として認定されたもの)
③有期実習型訓練有期契約労働者等の正社員転換を目的として実施するOJT+OFF-JT訓練
④中高年齢者実習型訓練45歳以上の労働者(訓練開始日時点)が実践的スキルを習得するOJT+OFF-JT訓練

(出典:人材開発支援助成金〔人材育成支援コース〕のご案内・令和8年8月3日版パンフレット)

人材育成支援コースの助成率・助成額【メニュー別】

人材育成支援コースの助成は、OFF-JTの賃金助成(中小企業で1人1時間800円)、OFF-JTの経費助成(中小企業で45%〜75%)、②〜④だけにあるOJT実施助成で構成されます。以下の金額は中小企業事業主の額で、( )内が中小企業以外(大企業)の額です。

「賃金要件等を満たす場合」とは、次のどちらかにあたる場合を指します。

  • 訓練修了後に賃金を5%以上引き上げた場合
  • 資格等手当の支払いを就業規則等に規定したうえで実際に支払い、その手当を含めて賃金を3%以上引き上げた場合

経費助成には金額の上限があります。1人1訓練あたりの経費助成限度額は、実訓練時間数に応じて次のとおりです。

  • 10時間以上100時間未満:15万円(大企業10万円)
  • 100時間以上200時間未満:30万円(同20万円)
  • 200時間以上:50万円(同30万円)

このほか、賃金助成の対象時間は1人1訓練あたり1,200時間(専門実践教育訓練は1,600時間)までです。1人あたりの支給申請は1年度3回まで、1事業所の支給限度額は1年度1,000万円です(パンフレット P.14〜15)。

賃金要件等による割増し分は、通常の支給申請とは別に申請します。要件を満たす賃金(または資格等手当)を3か月継続して支払った日の翌日から5か月以内に、割増し分のみを別途申請する仕組みで、個別の通知はありません(パンフレット P.26)。

OFF-JTの賃金助成・経費助成

次の表は、4メニューごとのOFF-JTの賃金助成額と経費助成率をまとめたものです。

メニュー賃金助成額(1人1時間あたり)賃金要件等を満たす場合経費助成率賃金要件等を満たす場合
①人材育成訓練(正規雇用労働者等)800円(400円)1,000円(500円)45%(30%)60%(45%)
①人材育成訓練(有期契約労働者等)800円(400円)1,000円(500円)70%85%
②認定実習併用職業訓練800円(400円)1,000円(500円)45%(30%)60%(45%)
③有期実習型訓練800円(400円)1,000円(500円)75%100%
④中高年齢者実習型訓練800円(400円)1,000円(500円)60%(45%)75%(60%)

(出典:同パンフレット14〜23ページ)

①人材育成訓練には、OJT実施助成がありません。②〜④はOJTとOFF-JTを組み合わせる訓練のため、OJT分の助成額が別枠であります。

①人材育成訓練の経費助成率は、対象労働者が正規雇用労働者等か有期契約労働者等かで変わります。パンフレットの助成率表は「正規雇用労働者等 45%(30%)」「有期契約労働者等 70%」と区分しています。賃金要件・資格等手当要件を満たす場合は、それぞれ+15%(60%・85%)です。

この70%(賃金要件等を満たす場合85%)に、正社員への転換は条件として付いていません。転換を条件とするのは③有期実習型訓練です(パンフレット助成率表の※3「有期契約労働者等について、正規雇用労働者等へ転換を行った場合」)。パート・契約社員に10時間以上のOFF-JTを実施する場合は、転換の予定がなくても高い方の率で申請できます。

OJT実施助成(1人1コースあたり・②〜④のみ)

次の表は、OJTを含む②〜④のメニューに支給されるOJT実施助成の額(1人1コースあたり)です。

メニュー基本額賃金要件等を満たす場合
②認定実習併用職業訓練20万円(11万円)25万円(14万円)
③有期実習型訓練10万円(9万円)13万円(12万円)
④中高年齢者実習型訓練10万円(9万円)13万円(12万円)

(出典:同パンフレット14〜23ページ)

③有期実習型訓練は、正社員等への転換が実際に行われなければ、この高い率(経費助成75%・OJT実施助成)では支給されません。訓練を実施しただけでは対象になりません。

有期実習型訓練で正社員転換できなかった場合の救済ルート

有期実習型訓練で正社員等への転換が実現しなかった場合でも、助成がゼロになるとは限りません。パンフレットは、転換等が実施されなかった場合であっても、支給決定時までに次の3つを満たしたときは「人材育成訓練」により助成対象となる場合がある、と定めています。この場合、OJT実施助成は対象外になります。

  • 職業能力開発推進者を選任していること
  • 事業内職業能力開発計画を策定・周知していること
  • 定期的なキャリアコンサルティングの機会の確保等について定めていること

有期実習型訓練の申請時には、この3つが求められません(後述)。そのため、転換前提で計画を出した事業主ほど、3つが未整備のまま転換が流れ、救済ルートを使えなくなりやすいのが実務上の落とし穴です。転換が確実でない計画では、計画届の段階で3つを整えておくことをおすすめします。

救済ルートを使うには「事前確認書」(様式第11号)の提出が必要で、電子申請の場合は人材育成訓練として計画届・支給申請を行う扱いになります。転換できなかったから何も出ないと諦める前に、管轄の労働局へご確認ください。

対象事業主の要件と申請期限

対象事業主の要件と申請期限の図解。主な項目:雇用保険適用事業所の事業主であること、職業能力開発推進者の選任と、事業内職業能力開発計画の策定・周知、計画届は訓練開始日の6か月前から1か月前までに労働局へ提出、支給申請は訓練終了日の翌日から起算して2か月以内
図解:対象事業主の要件と申請期限で押さえたいポイント

人材育成支援コース(有期実習型訓練を除く)を申請できるのは、次の4つを満たす事業主です。

  1. 雇用保険適用事業所の事業主であること(対象労働者はその事業所の雇用保険被保険者)
  2. 職業能力開発推進者(研修・人事の担当課長等)を選任していること
  3. 事業内職業能力開発計画を策定し、雇用する労働者に周知していること
  4. 定期的なキャリアコンサルティングを実施することを、労働協約・就業規則・事業内職業能力開発計画のいずれかで定めていること(対象時期を「○年ごと」などと明記する必要があります。パンフレット P.27・P.29)

2・3がまだ整っていなくても、計画届の提出日までに選任・策定・周知を行えば申請できます。有期実習型訓練だけは、2〜4の要件が求められません。

さらに共通の手続き要件として、次の3点があります。

  • 訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に「職業訓練実施計画届」を労働局へ提出していること
  • 訓練期間中も対象労働者に適正に賃金を支払っていること
  • 支給申請日までに訓練経費を全額負担していること(一部でも事業主が負担していない場合は経費助成の対象外)

支給申請の期限は、訓練終了日の翌日から起算して2か月以内です。

支給対象にならない典型パターン

人材開発支援助成金は、要件どおりに訓練を実施しても、次のパターンに当てはまると支給されません。公式パンフレットの「支給対象となりません」項目から、見落としやすいものを整理しました。自社は対象のはずと思い込む前に確認してください。

  • 労働保険料の未納:支給申請をした年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納めていない事業主(申請の翌日から起算して2か月以内に納入すれば対象外を回避できます)
  • 労働関係法令違反:支給申請日の前日から過去1年間に労働関係法令の違反があった事業主
  • 倒産:支給申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主
  • 雇用保険被保険者がいない事業所:訓練開始日(有期契約労働者等のみ対象の場合を除く)・支給申請日・支給決定日の時点で雇用保険適用事業所でない場合
  • 不正受給歴:不正受給から5年以内(不支給措置期間中)に申請した事業主、およびその不正に関与した役員等が属する事業主
  • 事業主都合の解雇:基準期間に、その計画を実施した事業所で雇用する被保険者を解雇等事業主都合により離職させた事業主は対象外です。基準期間とは、職業訓練実施計画届の提出日の前日から起算して6か月前の日から、支給申請書の提出日までの間をいいます。同じ基準期間に、特定受給資格者となる離職理由(離職区分1Aまたは3A)で離職した人の数が、支給申請書提出日の被保険者数の6%を超える場合も対象外です(該当者が3人以下の場合を除く)。訓練を始める前の半年間にさかのぼる要件なので、人員整理の直後に研修を計画する場合は特に気をつけてください
  • 手続き期限を過ぎた場合:計画届の提出(6か月前〜1か月前)・変更届・支給申請(訓練終了日の翌日から2か月以内)のどれか1つでも期限を過ぎると、それだけで不支給になります
  • 経費の未負担:訓練にかかる経費を事業主が全額負担していない場合
  • 所定労働時間外・休日に実施した時間:振替休日を除き、賃金助成・OJT実施助成の対象になりません
  • 実訓練時間数が10時間未満(一部の訓練を除く)

(出典:同パンフレット7〜10ページ「申請にあたっての注意事項」)

このほか、性風俗関連営業等や暴力団関係事業所も対象外です。詳細な支給要件は、最新のパンフレットで確認してください。雇用関係の助成金に共通する「受給できない事業主」の考え方は、雇用関係助成金に共通の要件で整理しています。

令和8年度末で終了する時限措置の2コース

人への投資促進コースと事業展開等リスキリング支援コースは、令和8年度末までの時限措置です。人材育成支援コース・教育訓練休暇等付与コースには、この期限はありません。

高度デジタル人材の育成やDX・GX関連の訓練でこの2コースを検討している場合、実質的な期限は「訓練開始日の1か月前までに計画届を提出できるかどうか」です。年度末に近づいてからの検討では間に合わない可能性があるため、早めに労働局へ相談してください。2コースの支給額と要件は、人への投資促進コース・事業展開等リスキリング支援コースの解説にまとめています。

よくある質問

Q. 個人事業主でも申請できますか?

はい、できます。雇用保険適用事業所の事業主であれば、法人・個人事業主を問わず申請できます(事業主団体等が申請する場合は別途要件があります)。

Q. 中小企業と大企業は何で判定されますか?

「主たる事業」ごとに、資本金の額または出資の総額と、企業全体で常時雇用する労働者数のどちらかの基準で判定します。たとえばサービス業は資本金5,000万円以下または常時雇用労働者100人以下、卸売業は資本金1億円以下または100人以下です。個人事業主など資本金の概念がない場合は労働者数のみで判定します。

Q. eラーニングや通信制の訓練も対象になりますか?

経費助成の対象にはなりますが、賃金助成は対象外です。標準学習時間が定められていないeラーニング等は、受講時間の扱いにも別途ルールがあるため、申請前にパンフレットのQ&Aを確認してください。

Q. 計画届はいつまでに出せばよいですか?

訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に、「職業訓練実施計画届」を労働局へ提出します。訓練が終わったあとの支給申請は、訓練終了日の翌日から起算して2か月以内です。どちらも期限を過ぎると不支給になります。

Q. キャリアアップ助成金と同時に使えますか?

はい、使えます。組み合わせるメリットもあります。人材育成支援コースの特定の訓練(有期実習型訓練など)を修了した労働者を正社員化すると、キャリアアップ助成金 正社員化コースで重点支援対象者として2期分の手厚い助成を受けられる場合があります。2つの助成金の使い分けはキャリアアップ助成金と人材開発支援助成金の違い・併用ガイドで詳しく説明しています。

Q. 訓練を実施すれば必ず支給されますか?

いいえ、訓練を実施しただけで必ず支給されるわけではありません。計画届の提出期限(訓練開始日の6か月前〜1か月前)や支給申請期限(訓練終了日の翌日から2か月以内)を1日でも過ぎると不支給になります。また有期実習型訓練は、実際に正社員等へ転換しなければこの枠では支給されません。転換できなかった場合も、3つの要件を支給決定時までに満たしていれば「人材育成訓練」として助成対象になる場合があります。

まとめ

  • 人材開発支援助成金は7コースあり、もっとも汎用性が高いのは人材育成支援コース(4メニュー)
  • 経費助成率は中小企業で45%〜75%(賃金要件等を満たすと60%〜100%)、大企業で30%〜75%(同45%〜100%)。メニューによって差が大きい。①人材育成訓練は有期契約労働者等を訓練する場合70%(同85%)で、正社員転換は条件ではない
  • ③有期実習型訓練は転換が条件だが、転換できなくても3要件を満たせば「人材育成訓練」として助成対象になる場合がある(OJT実施助成は対象外)
  • 対象事業主の要件は、雇用保険適用事業所・職業能力開発推進者の選任・事業内職業能力開発計画の策定(有期実習型訓練を除く)
  • 労働保険料の未納・法令違反・倒産・手続き期限切れ・基準期間内の事業主都合の解雇は、支給対象外になる典型パターン
  • 人への投資促進コース・事業展開等リスキリング支援コースは、令和8年度末までの時限措置

自社が使えるコースの見当がつかない場合は、補助金かんたん診断(無料・2分)で他の補助金・助成金とあわせて確認できます。助成金のご質問は公式LINEでも受け付けています。雇用・人材まわりの他の支援制度は目的から探すでまとめて確認できます。

参考(一次情報)