キャリアアップ助成金の正社員化コースとは、非正規雇用労働者を正社員(正規雇用労働者)に転換した事業主に支給される、厚生労働省の助成金です。パート・アルバイト・契約社員などから正社員への転換が対象になります。中小企業なら1人あたり最大80万円で、加算を組み合わせた場合の上限は140万円です(内訳に条件があります。詳細は加算措置で解説します)。

  • 支給額は1人あたり最大80万円です(中小企業・有期雇用労働者・重点支援対象者の場合)。加算込みの上限140万円は、「80万円+②多様な正社員制度加算40万円+③情報公表加算20万円」の組み合わせです。1人の転換に同時に付き得る制度系の加算は、①か②のどちらか一方に限られます
  • 受給の3条件は、キャリアアップ計画の事前提出、転換制度の就業規則等への規定、転換後6か月の賃金3%以上増額です。これに加えて、事業主側・労働者側それぞれの細かい要件をすべて満たす必要があります
  • 見落としやすいのは労働者側の要件です。転換前に通算6か月以上の雇用が必要で、社長の3親等以内の親族や「正社員にする約束で雇い入れた人」は対象外です
  • 転換の前後に会社都合の離職(解雇・退職勧奨等)があると不支給になります。転換日をまたぐ約1年半の期間が対象で、転換する本人以外の離職も含まれます
  • 1事業所あたり支給申請できる人数は年度20人までです。支給申請は、転換後6か月分の賃金支払日の翌日から2か月以内に行います

キャリアアップ助成金には複数のコースがあります。この記事では、もっとも申請件数が多い正社員化コース(有期雇用労働者等の正社員転換)に絞って、要件・金額・書類・落とし穴を解説します。ほかのコースを含む全体像はキャリアアップ助成金とは(全6コースの一覧)をご覧ください。当社は助成金の申請を提携の社会保険労務士と連携してご支援しており、実際に相談の多いつまずきポイントも織り込みました。

キャリアアップ助成金 正社員化コースとはの記事でわかる3つのこと:支給額(1人最大80万円)と、加算込み140万円の内訳、対象外になる労働者と、転換前後の解雇制限、賃金3%以上増額の計算方法と、申請の流れ
図解:キャリアアップ助成金 正社員化コースとはで最初に押さえたい3つのポイント

正社員化コースの支給額(企業規模・雇用形態別)

1人あたりの支給額は、転換前の雇用形態(有期雇用か無期雇用か)・企業規模・重点支援対象者に該当するかで変わります。区分ごとの金額は次の表のとおりです。

転換前の雇用形態対象者区分中小企業大企業
有期雇用労働者重点支援対象者80万円(40万円×2期)60万円(30万円×2期)
有期雇用労働者上記以外40万円(40万円×1期)30万円(30万円×1期)
無期雇用労働者重点支援対象者40万円(20万円×2期)30万円(15万円×2期)
無期雇用労働者上記以外20万円(20万円×1期)15万円(15万円×1期)

(出典:キャリアアップ助成金「正社員化コース」リーフレット〔令和8年4月8日版〕)

支給額の「期」は、転換後に通常の勤務をした6か月間を1つの単位とする考え方です。第1期は「転換後、通常の勤務をした6か月間」、第2期は「第1期の後、さらに通常の勤務をした6か月間」を指します。重点支援対象者は第1期・第2期の2回に分けて支給申請でき、それ以外は第1期のみです。

重点支援対象者とは

重点支援対象者とは、次のa〜cのいずれかに該当する労働者です。

  • a:雇入れから3年以上の有期雇用労働者
  • b:雇入れから3年未満で、①過去5年間に正規雇用労働者であった期間が合計1年以下、②過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていない、の両方に該当する有期雇用労働者
  • c:派遣労働者(派遣先で正社員として直接雇用する場合)、母子家庭の母等または父子家庭の父、人材開発支援助成金の特定の訓練修了者

※雇用された期間が通算5年を超える有期雇用労働者は、この助成金の区分上「無期雇用労働者」とみなされます。※新規学卒者は、bの対象から除かれます。※派遣労働者は、現行制度(2026年8月時点)では上記cの重点支援対象者として扱われます。かつて存在した独立の加算ではありません。古い解説記事には廃止済みの「派遣加算」が残っていることがあるため、金額は必ず最新のリーフレットで確認してください。

加算措置3種類と「最大140万円」の内訳

正社員化コースには、通常の支給額に上乗せされる加算が3種類あります。次の表は、各加算の内容・金額と、1事業所あたりの上限をまとめたものです。

加算内容加算額1事業所あたりの上限
①規定新設加算正社員転換制度を新たに規定して転換した場合20万円(大企業15万円)1回まで
②多様な正社員制度加算勤務地限定・職務限定・短時間正社員のいずれか1つ以上を新たに規定して転換した場合40万円(大企業30万円)1回まで
③情報公表加算(2026年4月8日新設)正社員転換の実績・制度概要を自社サイトまたは「しょくばらぼ」で公表した場合20万円(大企業15万円)1回まで

①②③は、いずれも同一の事業所につきそれぞれ1回までの加算です。①の内部(有期→正規の規定と無期→正規の規定、転換規定と派遣直接雇用規定など)や、②の内部(勤務地限定・職務限定・短時間正社員の間)でも同じです。複数の規定を新設しても、通算1回しか加算されません。

よく見かける「1人あたり最大140万円」は、80万円+②多様な正社員制度加算40万円+③情報公表加算20万円の組み合わせで成り立つ数字です。80万円は、中小企業が重点支援対象者の有期雇用労働者を転換した場合の金額です。

1人の転換は、1つの雇用区分への転換です。そのため、同一の労働者の申請に付き得る制度系の加算は①か②のどちらか一方に限られ、①20万円と②40万円を同じ1人に足し合わせる計算は成立しません。

なお、事業所として①と②を別々の転換でそれぞれ受けられるかどうかは、公式資料に明文の規定がありません。両方の活用を検討する場合は、事前に管轄の労働局へ確認することをおすすめします。

③の情報公表加算は、2026年4月8日以降に対象労働者を転換等する場合が対象です。受けるには、次の3項目すべてを、自ら管理するウェブサイトか厚生労働省の「しょくばらぼ」(職場情報総合サイト)で公表する必要があります。

  1. 転換制度の概要(手続き・要件・実施時期)
  2. 直近3事業年度の転換実績人数
  3. 入社から転換までの平均期間・最短期間

公表日はキャリアアップ計画期間中で、かつ支給申請日までである必要があります。公表は、支給申請日から少なくとも申請事業年度の終了まで継続する同意が必要です。

受給の3条件(全体像)

正社員化コースの受給には、大枠として次の3条件をすべて満たす必要があります。

  1. キャリアアップ計画の事前提出:正規雇用労働者に転換する前日までに、労働局へ「キャリアアップ計画」を作成・提出していること
  2. 転換制度の規則化:正規雇用労働者に転換する制度を就業規則等に規定していること
  3. 賃金3%以上増額での転換実施:転換後6か月間の賃金を、転換前6か月間の賃金より3%以上増額していること

実際の審査では、この3条件の下に事業主側の共通要件と対象労働者の要件があり、不支給の多くはそちらで発生します。次の章から順に説明します。

対象となる事業主の要件

キャリアアップ管理者の配置

雇用保険適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を置く必要があります。管理者には、有期雇用労働者等のキャリアアップに取り組む知識・経験を有する者(事業主や役員でも可)を任命します。ただし、複数の事業所の管理者を1人が兼ねることや、労働者代表との兼任はできません。複数店舗・複数拠点で申請する場合は、拠点ごとに別の管理者が必要です。

キャリアアップ計画(計画期間は3年以上5年以内)

キャリアアップ計画とは、対象者・目標・期間・取り組み内容を記載して労働局へ提出する書類です。計画期間は3年以上5年以内で定めます。5年の計画期間が満了した後も転換を続ける場合は、新たな計画書の提出が必要です。

見落としがちなのが変更届です。計画書の表紙・共通事項・キャリアアップ管理者・計画内容のいずれかに変更が生じた場合や、別コースを追加する場合は、変更届の提出が必要です。未提出だと助成金を受給できない場合があります。管理者の交代や本社移転があったら、転換の前に変更届を出しておいてください。

転換前後の解雇制限(約1年半の期間が対象)

正社員転換日の前日から起算して6か月前の日から、転換日から1年を経過する日までの間に、その事業所で雇用保険被保険者を解雇等の事業主都合により離職させていないことが要件です。

あわせて、同じ期間内に特定受給資格者(会社都合相当の離職理由の者)となった離職者数にも基準があります。その事業所の雇用保険被保険者数の6%を超えていないことが必要です(特定受給資格者となった離職者が3人以下の場合を除く)。

実務で注意したい点は2つあります。

  • 対象は事業所全体の離職で、転換する本人に限りません。別の従業員が会社都合で退職しただけで、進行中の申請が不支給になります
  • 転換後1年間も対象期間です。支給申請が終わった後でも、転換日から1年以内の会社都合離職は影響します

当社がご相談を受けるなかでよく見るのは、「業績悪化で退職勧奨をした直後に、正社員転換の申請時期が重なっていた」パターンです。人員整理と正社員化を同時期に進める計画になっていないか、着手前にカレンダーで確認することをおすすめします。

その他の共通要件

  • 対象労働者の労働条件、勤務状況、賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにできること(支給要領0501ハ)
  • 支給のための審査に協力すること(必要な書類の整備・保管、労働局の求めに応じた提出、実地調査への協力など)
  • 労働保険料を滞納していないこと
  • 過去に助成金の不正受給による不支給期間中でないこと

対象となる労働者の要件(対象外になる人)

対象になる労働者・ならない労働者の図解。主な項目:転換前に通算6か月以上、非正規の雇用区分で雇用されていること、正社員として雇用することを約束して雇い入れた人は対象外、過去3年以内に正社員・役員だった人の「出戻り転換」は対象外、事業主・取締役の3親等以内の親族は対象外
図解:対象になる労働者・ならない労働者で押さえたいポイント

転換される労働者側にも細かい要件があり、非正規の従業員なら誰でも対象になるわけではありません。

転換前に通算6か月以上の雇用が必要

対象労働者は、賃金の額または計算方法が正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等の適用を、転換前に通算6か月以上受けて雇用されている有期雇用労働者等であることが必要です。入社したばかりの従業員をすぐに正社員へ切り替えても、対象になりません。最短でも、非正規の雇用区分で6か月勤務した後に転換する設計になります。

対象外になる労働者

次のいずれかに当てはまる場合、その労働者は支給対象外です。

  • 正社員として雇用することを約束して雇い入れた者。正社員求人に応募して採用され、試用期間として有期契約を結んだケースも、「正社員化を前提とした雇入れ」に当たらないか確認されます。求人票・雇用契約書の記載と実態が審査対象です
  • 転換日の前日から過去3年以内に、同一事業主または資本的・経済的・組織的に密接な関係の事業主のもとで正規雇用労働者だった者、役員等だった者。一度正社員や役員だった人を非正規で再雇用してから正社員に戻す、いわゆる「出戻り転換」は対象外です。グループ会社間の移動も密接な関係とみなされ得ます
  • 事業主または取締役の3親等以内の親族。血族3親等以内・配偶者・姻族が該当し、社長の子・兄弟姉妹・甥姪、配偶者の親などを正社員化しても支給されません
  • 就労継続支援A型事業所の利用者
  • 新規学卒者で雇入れから1年を経過していない者

このうち「正社員の約束で雇い入れた者」は、悪意なく引っかかる企業が目立ちます。求人票に「正社員登用前提」「試用期間3か月(契約社員)」のような記載があると、転換ではなく当初からの正社員採用と判断される可能性があります。求人を出す段階から、助成金の利用を見据えて設計するのが安全です。

「正規雇用労働者」の定義:賞与・退職金と昇給の制度が必要

正社員化コースでは、「賞与または退職金の制度」があり、かつ「昇給」がある雇用区分への転換であることが必要です。社内で「正社員」と呼んでいれば足りるわけではありません。転換先の就業規則にこの2点の規定がないと、転換しても支給対象になりません。

さらに、同一事業主の正規雇用労働者に適用される就業規則等(賃金の算定方法・支給形態、賞与、退職金、休日、昇給・昇格の有無等)が、実際に適用されている必要があります。勤務地限定・職務限定・短時間正社員(多様な正社員)への転換も対象です。ただし、通常の正社員と待遇(給与形態・賞与の算定方法・休日など)に不合理な差があると対象外です。たとえば「正社員は月給制、限定正社員は時給制」という設計は認められません。

なお、転換後も派遣労働者として雇用されている者は、正規雇用労働者に該当しません。派遣元での転換を検討する場合は、雇用形態の設計に注意してください。

賃金3%以上増額の計算方法

賃金3%以上増額の要件は、転換前6か月と転換後6か月の賃金を比べて判定します。計算方法を誤ると要件を満たしていないと判定されるため、比較の方法と算入できる賃金を確認しておきます。

比較の方法:総額比較が基本、条件次第で時間単価比較

転換前後で所定労働時間と賃金の支給形態が変わらない場合は、転換前6か月と転換後6か月の賃金総額で比較します。月給→月給で所定労働時間も同じ場合や、変形労働時間制で所定労働時間・支給形態に変更がない場合などです。

一方、時給のパートを月給の正社員にするなど、支給形態が変わる場合や所定労働時間が変わる場合は、1時間あたりの賃金に換算して比較します。1時間あたりの賃金は、賃金を所定労働時間で除して求めます(円未満切り上げ)。

賃金に含められるもの・含められないもの

3%の計算に算入できる賃金と、算入できない手当は次のとおりです。

区分内容
算入できる基本給、定額で支給される諸手当(役職手当など)
算入できない通勤手当(交通費補填)・住宅手当・燃料手当・工具手当・休日手当・時間外労働手当(固定残業代を含む)・歩合給・精皆勤手当・食事手当など、実費弁償的または月により変動する手当。賞与も含みません

もう1つの条件として、転換後6か月間の賃金に算入できる諸手当は、その手当の決定・計算方法(支給要件を含む)が就業規則または労働協約に記載されているものに限られます。転換を機に新しい手当を付けて3%を満たす設計にする場合は、就業規則への規定が先です。口頭や個別契約だけの手当は算入できません。

固定残業代を減らす場合は「二重の3%」が必要

転換にあわせて固定残業代の総額や時間相当数を減らす場合は、固定残業代を含めた比較・含めない比較のいずれでも3%以上の増額を満たす必要があります。「基本給に振り替えたから総額は増えている」という説明だけでは通りません。固定残業代を触る転換は、両方の計算書を作って事前に検算してください。

計算には公式ツールが使える

厚生労働省が「賃金上昇要件確認ツール」を公開しており、転換前後の賃金を入力すると3%要件の充足を確認できます。支給申請時の増額計算書としても使えます。転換後に3%不足が発覚しても遡って直すことはできないため、当社は転換の前にこのツールで検算しておくことをおすすめしています。

申請の流れと申請期限

申請の流れと申請期限の図解。主な項目:転換日の前日までに、キャリアアップ計画を労働局へ提出、就業規則等に転換制度を規定し、規定どおりに正社員転換、転換後6か月間の賃金を支払う(3%以上の増額が必要)、支払日の翌日から2か月以内に第1期の支給申請
図解:申請の流れと申請期限で押さえたいポイント

正社員化コースの手続きは、キャリアアップ計画の提出から支給申請まで、次の順で進みます。順番を1つでも間違えると(特に計画提出前の転換)、その労働者については受給の道がなくなります。

  1. キャリアアップ計画の作成・労働局への提出(転換日の前日まで。実務上は転換の1か月以上前が安全です)
  2. 就業規則等への転換制度の規定(規定がない場合は改定し、所轄への届出まで済ませる)
  3. 就業規則等に基づく転換手続きの実施(面接・試験など、規定した手続きどおりに行う)
  4. 正社員転換の実施(辞令・新しい雇用契約書の交付)
  5. 転換後6か月間の賃金支払い(第1期)
  6. 第1期支給申請:6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内
  7. (重点支援対象者のみ)第2期支給申請:さらに6か月の勤務・賃金支払い後、同じく支払日翌日から2か月以内

第2期申請の追加要件

重点支援対象者の第2期申請では、第1期(転換後の通常勤務6か月間)の賃金と比べて、第2期の賃金を合理的な理由なく引き下げていないことが要件です。第1期で3%増額を達成した後に給与を下げると、第2期分(中小企業・有期なら40万円)を受け取れません。添付書類も、第2期分の賃金台帳等が改めて必要です(出勤簿等は、賃金台帳等で出勤日数・労働時間数等が確認できない場合に限り第2期分を出します)。

審査・入金までの期間

審査期間は公式には示されていません。当社のサポート経験では、支給申請から支給決定・入金まで数か月から半年程度かかるケースが一般的です(労働局の混雑状況・時期により変動します)。助成金は後払いのため、転換後の人件費増は自己資金で先行負担する前提で資金繰りを組んでください。

支給申請の必要書類一覧

第1期支給申請の主な書類は、次の表のとおりです(2026年8月時点。最新様式は厚生労働省のキャリアアップ助成金ページからダウンロードできます)。

書類補足
支給申請書(様式第3号)コース共通の申請書
正社員化コース内訳(様式第3号・別添様式1-1)対象労働者ごとの支給額内訳
対象労働者詳細(様式第3号・別添様式1-2)転換日・雇用期間等の詳細
支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)不支給要件に該当しないことの申立て
労働局の受理印があるキャリアアップ計画書(写し)事前提出済みのもの
就業規則または労働協約(転換前・転換後の両方)転換制度の規定と、転換前後の雇用区分が分かるもの
雇用契約書・労働条件通知書(転換前・転換後)雇用形態と賃金の変化を示す
賃金台帳等(転換前6か月分と、転換後の第1期支給対象期分。転換後は勤務した日数が11日未満の月を数えない)3%増額の根拠資料
賃金3%以上増額の計算書賃金上昇要件確認ツールの出力が使える
出勤簿・タイムカード等(賃金台帳等で出勤日数・労働時間数等が確認できない場合に限り、賃金台帳等と同じ期間分)出勤状況の確認

事業所の状況(中小企業であることの確認資料など)により、追加書類を求められる場合があります。日常の労務管理で賃金台帳・出勤簿が整備されていることが前提の制度です。勤怠管理があいまいな場合は、転換の前に整えておく必要があります。

支給対象外になる典型パターン

正社員化コースで見落としやすい対象外パターンを、パンフレット・Q&Aから整理しました。「対象になるはず」と思い込んで転換を進める前に確認してください。

  • キャリアアップ計画の提出前に転換してしまった:事後提出は受理されず、受給の道はありません
  • 派遣元での転換 → 転換後も派遣労働者として勤務:正規雇用労働者の定義から外れるため対象外です
  • 定年間際の転換:転換後、定年までの期間が1年に満たない場合は認められません
  • 定年後の転換:定年年齢を超えた方の正規雇用への転換も、雇用されたタイミングを問わず受給できません
  • 転換制度に年齢・勤続年数の上限がある:「○歳未満」「勤続○年未満」などで対象者を限定する転換制度は、その時点で要件を満たしません
  • 多様な正社員の待遇差:給与の算出・支給形態が通常の正社員と異なる、賞与・退職金の算定方法が異なる、休日や昇給・昇格に不合理な差がある、のいずれも不支給の理由になります
  • 就業規則の例外運用:就業規則に「勤続1年以上」と規定しながら、例外規定がないのに所属長推薦で勤続1年未満の者を転換した場合は、客観的な要件と認められず対象外です
  • 転換前後の会社都合離職:事業主の要件で説明したとおり、転換日前日から起算して6か月前〜転換日から1年経過日の間に事業主都合の離職があると不支給です
  • 合併・事業譲渡等で転換者が異動した:吸収合併・新設合併・事業譲渡等により対象労働者が転換元と別法人に異動すると、原則としていずれの法人からも支給申請できません

さらに、1事業所あたりの支給申請上限は年度20人までです。上限は、転換を実施した年度ではなく、支給申請日の属する年度で判定されます。そのため、2か月の申請期間が翌年度にまたがる場合には、翌年度の枠として申請できます。

ただし申請期間(賃金支払日の翌日から2か月以内)は厳格で、天災事変等のやむを得ない理由なく期間を過ぎた分は受給できません。20人を超える転換を予定する場合は、年度をまたいで転換時期を設計しておく必要があります。

不正受給の罰則

正社員化コースで、要件を満たしていないのに満たしているように装って受給すると、不正受給として次の措置を受けます。

  • 支給済み助成金の全額返還に加え、年3%の延滞金と返還額の20%の違約金の請求
  • 5年間、雇用関係助成金を受給できない(キャリアアップ助成金以外も含む)
  • 不正に関与した社会保険労務士・代理人にも返還の連帯債務が生じ、事務所名等が公表される

「転換日を書類上ずらす」「実際には払っていない賃金を台帳に載せる」といった操作は、典型的な不正パターンです。要件を満たせない場合は、次の転換対象者から正しく設計し直すのが結局いちばんの近道です。

補助金との併用について

キャリアアップ助成金は人件費まわりの「助成金」で、要件を満たせば受給できる制度です。一方、設備投資やソフトウェア導入の費用は、審査で採否が決まる「補助金」の領域です。たとえば業務システムの導入なら、デジタル化・AI導入補助金が対象になります。

人件費は助成金、導入費用は補助金と使い分けるのが基本です。両者は財源も所管も別のため、対象経費が重複しない限り同時活用できます。制度の性格の違いは補助金と助成金の違いで詳しく解説しています。

また、くるみん・えるぼし認定など両立支援系の制度と組み合わせて人材採用を強化する方法はくるみん・えるぼし認定と助成金の記事を参考にしてください。

よくある質問

Q. 個人事業主でも申請できますか?

はい、申請できます。キャリアアップ助成金は法人・個人事業主を問わず、雇用保険適用事業所であれば申請できます。ただし、事業主の3親等以内の親族は対象労働者になれません。家族経営で従業員が親族のみの場合は、実質的に使えません。

Q. パート・アルバイトから正社員にした場合も対象になりますか?

はい、対象になります。有期雇用労働者・短時間労働者(パート・アルバイト)・派遣労働者を含む非正規雇用労働者から、正規雇用労働者への転換が対象です。ただし、正規雇用労働者と賃金の額または計算方法が異なる雇用区分の就業規則等の適用を、転換前に通算6か月以上受けていることが必要です。

Q. 入社したばかりの従業員をすぐ正社員にしても対象になりますか?

いいえ、対象になりません。非正規の雇用区分で通算6か月以上雇用されてからの転換が要件です。また、新規学卒者は雇入れから1年を経過していないと対象外です。「優秀だからすぐ正社員に」という判断自体は自由ですが、その場合は助成金の対象外になります。

Q. 社長の家族を正社員にした場合は対象になりますか?

いいえ、対象になりません。事業主または取締役の3親等以内の親族(血族3親等以内・配偶者・姻族)は支給対象外です。子・兄弟姉妹・甥姪、配偶者の父母などが該当します。

Q. すでに正社員転換を実施してしまいましたが、今からキャリアアップ計画を出せば間に合いますか?

いいえ、間に合いません。キャリアアップ計画は、正規雇用労働者に転換する「前日まで」に労働局へ提出している必要があります。転換済みの労働者について遡って受給する方法はないため、次に転換する労働者から計画を整えて臨んでください。

Q. 賃金3%以上増額の基準となる「賃金」に、通勤手当や残業代は含まれますか?

いいえ、含まれません。通勤手当・住宅手当・時間外労働手当(固定残業代を含む)・歩合給・精皆勤手当・食事手当などは、算定から除外されます。比較の対象は、基本給と、就業規則等に決定・計算方法が記載された定額の諸手当です。

所定労働時間と支給形態が転換前後で変わらなければ、賃金総額で比較します。時給→月給など、支給形態や所定労働時間が変わる場合は、1時間あたりの賃金に換算して比較します。詳細は賃金3%以上増額の計算方法をご覧ください。

Q. 「1人あたり最大140万円」という記事を見ましたが、本当にそこまで受け取れますか?

条件がそろえば受け取れますが、140万円になる組み合わせは決まっています。「中小企業が重点支援対象者の有期雇用労働者を転換(80万円)+多様な正社員制度加算(40万円)+情報公表加算(20万円)」の場合です。

1人の転換は、1つの雇用区分への転換です。そのため、同じ労働者の申請に付き得る制度系の加算は、規定新設加算(20万円)か多様な正社員制度加算(40万円)のどちらか一方に限られます。すべての加算を単純に足した金額にはなりません。

Q. 転換の前後に別の従業員を解雇するとどうなりますか?

不支給になる可能性が高いです。転換日の前日から起算して6か月前の日から、転換日から1年を経過する日までの間に、事業所で会社都合の離職(解雇・退職勧奨など)が出ていないことが事業主要件だからです。転換する本人以外の離職も対象で、特定受給資格者となる離職者が被保険者数の6%を超えた場合も同様です。人員整理の予定がある時期の転換申請は避けてください。

Q. 申請してから入金までどれくらいかかりますか?

当社のサポート経験では、申請から支給決定・入金まで数か月から半年程度かかるのが実情です。審査期間の公式な目安は示されていません。助成金は後払いのため、賃上げ後の人件費は自己資金で先行負担する前提で計画してください。

Q. 人材開発支援助成金の研修と組み合わせるメリットはありますか?

はい、あります。人材開発支援助成金の特定の訓練(人材育成支援コースの有期実習型訓練など)を修了した労働者を正社員化すると、重点支援対象者として2期分の助成を受けられます。「訓練で育成→正社員化」の流れは、両助成金を重ねて活用できる代表的なパターンです。2制度の使い分けはキャリアアップ助成金と人材開発支援助成金の違い・併用ガイドで整理しています。対象となる訓練は随時見直されるため、詳細は人材開発支援助成金の公式ページで確認してください。

まとめ

  • 支給額は最大80万円です(中小企業・有期雇用・重点支援対象者)。加算込みの上限140万円は、「80万円+多様な正社員制度加算40万円+情報公表加算20万円」の組み合わせに限られます
  • 3条件(計画の事前提出・転換制度の規則化・賃金3%以上増額)の下に、事業主要件と労働者要件があります。事業主要件はキャリアアップ管理者の配置・計画期間3〜5年・転換前後の解雇制限など、労働者要件は通算6か月以上の雇用・3親等以内の親族除外などです
  • 賃金3%の比較は総額比較が基本で、支給形態や所定労働時間が変わる場合は1時間あたりに換算します。固定残業代を減らす場合は、含めた場合・含めない場合の両方で3%以上が必要です
  • 支給申請は賃金支払日の翌日から2か月以内、上限は年度20人です。入金までは数か月〜半年程度を見込んで資金繰りを組みます

正社員化コースは、後から書類を整えれば何とかなる制度ではありません。求人設計・就業規則・賃金設計を転換の前に固めておけるかで、受給できるかどうかが決まります。自社のケースで対象になるか、他の助成金・補助金と合わせて使えるかは補助金かんたん診断(無料・2分)で確認できます。個別のご質問は公式LINEでも受け付けています。雇用・人材まわりの他の支援制度は目的から探すでまとめて確認できます。

参考(一次情報)