キャリアアップ助成金とは、非正規雇用の従業員の正社員転換や処遇改善に取り組んだ事業主に支給される、厚生労働省の助成金です。ここでいう非正規雇用の従業員とは、有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者などを指します。パート・アルバイトを正社員にした、賃金規定を引き上げた、賞与や退職金の制度を作った、といった取組が支給の対象です。

  • 令和8年度は6コースあります。もっとも使われるのは正社員化コースで、中小企業なら1人あたり最大80万円です
  • 全コース共通で、取組の実施日の前日までに「キャリアアップ計画」を提出する必要があります。ここが最大の落とし穴です
  • 令和8年4月8日から、正社員化コースに「情報公表加算」20万円が新設されました(令和7年度版にはありません)。社会保険適用時処遇改善コースは、令和8年3月末で暫定措置が終了しています
  • 事業主都合の解雇があると不支給になるのは正社員化コース系です。賃金規定等改定コースなど処遇改善系にはこの要件がなく、扱いはコースごとに違います

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キャリアアップ助成金とはの記事でわかる3つのこと:全6コースの支給額と、対象になる取組、全コース共通の受給要件と、受給できない事業主、キャリアアップ計画の提出期限と申請の流れ
図解:キャリアアップ助成金とはで最初に押さえたい3つのポイント

令和8年度の全6コースと支給額の一覧

キャリアアップ助成金は、目的の異なる6コースの総称です。次の表は、各コースの対象となる取組と中小企業の支給額をまとめたものです。支給額は令和8年度版のパンフレット(令和8年4月8日現在)と障害者正社員化コースの案内ページによります。

コース何をしたら対象か中小企業の支給額支給の単位
正社員化コース有期雇用労働者等を正社員に転換40万円〜80万円労働者1人あたり(1年度1事業所20名まで)
障害者正社員化コース障害のある有期雇用労働者等を正規・無期雇用に転換45万円〜120万円労働者1人あたり
賃金規定等改定コース基本給の賃金規定等を3%以上増額改定4万円〜7万円労働者1人あたり(1年度1事業所100名まで)
賃金規定等共通化コース正社員と共通の賃金規定等を新設・適用60万円1事業所あたり1回のみ
賞与・退職金制度導入コース賞与または退職金の制度を新設・支給40万円〜56万8,000円1事業所あたり1回のみ
短時間労働者労働時間延長支援コース労働時間を延長し、社会保険に加入してもらう1年目40万円/2年目20万円労働者1人あたり

大企業(中小企業以外)は、どのコースも支給額が下がります。ここからは、コースごとの支給額と注意点を説明します。

正社員化コースの支給額

正社員化コースは、有期雇用労働者等を、就業規則等に規定した制度に基づいて正社員転換した場合が対象です。転換前の雇用形態と「重点支援対象者」に当たるかで金額が変わります。

対象者・企業規模有期雇用労働者からの転換無期雇用労働者からの転換
重点支援対象者・中小企業80万円(40万円×2期)40万円(20万円×2期)
重点支援対象者・大企業60万円(30万円×2期)30万円(15万円×2期)
上記以外・中小企業40万円(40万円×1期)20万円(20万円×1期)
上記以外・大企業30万円(30万円×1期)15万円(15万円×1期)

重点支援対象者は、次のa〜cのいずれかに該当する人です(パンフレットと支給要領の定義を要約)。

  • a:雇入れから3年以上の有期雇用労働者
  • b:雇入れから3年未満で、①雇い入れの日の前日から起算して過去5年間に正規雇用労働者であった期間が合計1年以下、かつ②雇い入れの日の前日から起算して過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていない、のいずれにも該当する有期雇用労働者
  • c:派遣労働者(派遣先で正社員として直接雇用する場合)、母子家庭の母等または父子家庭の父、人材開発支援助成金の特定の訓練修了者

ただし、雇用された期間が通算5年を超える有期雇用労働者は無期雇用労働者とみなされ、aには該当しません。「3年以上働いてもらっているから重点支援対象者だ」と考えて申請額を見込むと、通算5年超のケースで金額が半分になることがあります。なお、新規学卒者はbから除かれます。

正社員化コースには、雇用形態そのものが対象外になるパターンが2つあります(処遇改善系の4コースには、この2つの制限は設けられていません)。

1つ目は、新規学卒者を雇い入れから1年未満で正社員転換した場合です。本来は正規雇用で採用できるところを、あえて有期で雇い入れて転換助成金を得る活用を防ぐ趣旨から、支給対象外とされています。雇い入れから1年以上経過していれば対象になります。

2つ目は、外国人労働者の在留資格によるものです。外国人技能実習生・特定技能第1号・EPA受入人材(看護師・介護福祉士の試験合格前)は、正社員化コースの支給対象外です。永住者・定住者や、他の就労系在留資格は対象になり得ます。また、これらの在留資格でも、賃金規定等改定コースなど処遇改善系のコースでは対象となり得ます。

技能実習生や新卒アルバイトを多く雇用する事業者は、正社員化コースを検討する前にこの2点を確認してください。

正社員化コースの加算措置は次の3つで、いずれも1事業所あたり1回のみです。

加算加算額(中小企業)
正社員転換制度を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合20万円(大企業15万円)
多様な正社員制度(勤務地限定・職務限定・短時間正社員のいずれか1つ以上)を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合40万円(大企業30万円)
正規雇用労働者への転換等に係る所定の情報を自ら管理するウェブサイトまたは職場情報総合サイト(しょくばらぼ)に公表した場合20万円(大企業15万円)

3つ目の情報公表加算は、令和8年4月8日に新設された加算です。同日以降に対象労働者を転換等する場合が対象で、令和7年度版のパンフレットには掲載されていません。要件・必要書類・賃金3%増額の計算方法など、正社員化コースの実務は正社員化コースの解説記事で詳しく説明しています。

障害者正社員化コースの支給額

障害者正社員化コースは、障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者・無期雇用労働者に転換した場合のコースです。キャリアアップ助成金のパンフレットには掲載されておらず、厚生労働省の専用ページで案内されています。支給対象期間は1年間で、最初の6か月を第1期、次の6か月を第2期として支給されます。支給額は、障害の区分と転換の形によって次のように分かれます。

対象労働者有期→正規有期→無期無期→正規
重度身体障害者、重度知的障害者および精神障害者120万円(中小企業以外90万円)60万円(同45万円)60万円(同45万円)
重度以外の身体障害者、重度以外の知的障害者、発達障害者、難病患者、高次脳機能障害と診断された者90万円(中小企業以外67.5万円)45万円(同33万円)45万円(同33万円)

障害者の雇用に関する助成金は他制度にもあり、同一の措置について併給できない場合があります。実際の申請前に管轄の労働局へ確認してください。

賃金規定等改定コースの支給額

賃金規定等改定コースは、有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、適用した場合が対象です。1人あたりの助成額は、次の表のとおり引き上げ率で変わります(1年度1事業所あたり支給申請上限100名)。

賃金引き上げ率3%以上4%未満4%以上5%未満5%以上6%未満6%以上
中小企業4万円5万円6.5万円7万円
大企業2.6万円3.3万円4.3万円4.6万円

加算は2つあります。「職務評価の手法の活用により賃金規定等を増額改定した場合」は20万円(大企業15万円)です。「有期雇用労働者等に適用される昇給制度を新たに規定した場合」も20万円(大企業15万円)です。

実務で見落とされやすいのが適用範囲です。既存の賃金規定等を改定する場合、対象労働者が位置づけられていない等級も含め、すべての等級を増額改定していることが必要とされています。「対象者のいる等級だけ上げる」では要件を満たしません。

また、最低賃金の効力が生じた日以降に増額した場合、当該最低賃金に達するまでの増額分は3%の計算に含めません。最低賃金の改定に合わせた昇給をそのまま申請しても、増額率が足りないと判断されることがあります。最低賃金の改定に合わせて賃上げする場合の考え方や必要書類は、賃金規定等改定コースの解説記事にまとめています。

なお、事業場内最低賃金の引き上げそのものに対する助成は業務改善助成金という別制度です。設備投資を伴う賃上げなら、そちらも検討してください。

賃金規定等共通化コースの支給額

賃金規定等共通化コースの支給額は、1事業所あたり中小企業60万円・大企業45万円です(1事業所あたり1回のみ)。対象は、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、雇用するすべての有期雇用労働者等に適用した場合です。作成と適用は、就業規則または労働協約の定めるところにより行います。正社員の月給とパートの時給を比べる時給換算の方法は、賃金規定等共通化コースの解説記事で説明しています。

賞与・退職金制度導入コースの支給額

賞与・退職金制度導入コースは、すべての有期雇用労働者等に関して賞与・退職金制度を新たに設け、支給または積立てを実施した場合が対象です(1事業所あたり1回のみ)。制度は、就業規則または労働協約の定めるところにより設けます。支給額は、賞与と退職金のどちらか一方を導入するか、両方を同時に導入するかで次のように変わります。

制度賞与または退職金いずれかを導入賞与および退職金制度を同時に導入
中小企業40万円56万8,000円
大企業30万円42万6,000円

ここでいう退職金は、在職年数等に応じて支給される退職金(年金払いによるものを含む)を積み立てるための制度です。積立金や掛金等の費用を全額事業主が負担することが就業規則または労働協約に規定され、実際に全額を事業主が負担するものと定義されています(事業主が拠出する掛金に上乗せして従業員が掛金を拠出する場合を含む)。事業主が全額を負担せず、従業員に費用を負担してもらう制度は、この定義から外れます。

短時間労働者労働時間延長支援コースの支給額

短時間労働者労働時間延長支援コースは、短時間労働者の週所定労働時間を延長し、新たに社会保険に加入してもらった場合のコースです。いわゆる「年収の壁」対応にあたる取組で、当分の間の暫定措置とされています。

1年目の取組では、週所定労働時間の延長時間に応じて、別途必要な基本給の増額率が次のように決まっています。

延長時間5時間以上4時間以上5時間未満3時間以上4時間未満2時間以上3時間未満
別途必要な基本給の増額率増額要件なし5%以上10%以上15%以上

1年目の支給額は延長時間にかかわらず、小規模企業50万円・中小企業40万円・大企業30万円です。小規模企業事業主(常時雇用する労働者の数が30人を常態として超えない事業主)の区分を確認するのは、6コースのうちこのコースだけです。

2年目の取組は、1年目の取組後に次のいずれかを行った場合が対象で、支給額は小規模企業25万円・中小企業20万円・大企業15万円です。

  • a 労働時間をさらに2時間以上延長
  • b 基本給をさらに5%以上増加
  • c 昇給、賞与もしくは退職金制度の新たな適用

対象労働者は、次の2つをどちらも満たす人に限られます。

  • 社会保険の適用日の前日から起算して過去6か月間、社会保険の適用要件を満たしていなかった
  • 同じ事業所で過去2年以内に社会保険に加入していなかった

同じ事業所で2年以内に社会保険に加入していた人を入れ直す形は、この条件に当たらないため対象になりません。「年収の壁」との関係や旧コースからの切替えは、短時間労働者労働時間延長支援コースの解説記事で詳しく説明しています。

全コース共通の受給要件(対象となる事業主)

全コース共通の受給要件の図解。主な項目:雇用保険適用事業所の事業主であること、事業所ごとにキャリアアップ管理者を置く(労働者代表と兼任不可)、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長に提出する、支給申請時点で、コースごとの支給要件をすべて満たす
図解:全コース共通の受給要件で押さえたいポイント

キャリアアップ助成金には、コース固有の要件とは別に、すべてのコースに共通する事業主の要件があります。次の5つすべてに該当する事業主が対象です。

  1. 雇用保険適用事業所の事業主
  2. 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主(キャリアアップ管理者は、複数の事業所および労働者代表との兼任はできません)
  3. 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に係るキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長に提出した事業主
  4. 実施するコースの対象労働者の労働条件、勤務状況および賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにすることができる事業主
  5. キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主(支給申請時点で各コースに定めるすべての支給要件を満たしている事業主)

「キャリアアップ管理者は労働者代表と兼任できない」という点は、社長と従業員数名の会社ほど引っかかりやすい要件です。就業規則の意見聴取で労働者代表になっている人を管理者にしないよう、先に整理しておいてください。

中小企業事業主の範囲

支給額は企業規模で変わります。判定は支給申請時点の資本金の額・出資の総額または常時雇用する労働者の数で行い、いずれか一方を満たせば中小企業です。業種ごとの基準は次の表のとおりです。

業種資本金の額・出資の総額常時雇用する労働者の数
小売業(飲食店を含む)5,000万円以下50人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
卸売業1億円以下100人以下
その他の業種3億円以下300人以下

受給できない事業主(全コース共通の不支給要件)

次のいずれかに該当する事業主は、コースにかかわらずキャリアアップ助成金を受給できません。取組を始める前に確認しておきたい項目です。

  1. 支給申請した年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納入していない事業主(支給申請後、滞納していることの通知はされません)
  2. 支給申請日の前日から過去1年間に労働関係法令の違反を行った事業主
  3. 性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業またはこれらの営業の一部を受託する営業を行う事業主
  4. 暴力団と関わりのある事業主
  5. 暴力主義的破壊活動を行った、または行う恐れがある団体等に属している事業主
  6. 支給申請日、または支給決定日の時点で倒産している事業主
  7. 支給申請時または支給決定時に、雇用保険適用事業所の事業主でない事業主

労働保険料の滞納は、当社への相談でも「指摘されて初めて気づいた」というケースが実際にあります。滞納していても申請は受け付けられ、不支給の通知で初めて分かります。取組を始める前に、労働保険の納付状況を確認してください。

また、本助成金の趣旨・目的に沿った取組と判断されない場合も不支給とされています。たとえば、労働者の処遇改善が図られていない場合や、非正規雇用労働者の処遇低下が図られている場合です。形式的に要件を満たしていても、他の待遇を下げて帳尻を合わせた取組は通りません。

事業主都合の解雇の要件はコースによって違う

雇用関係の助成金では「事業主都合の解雇があると受給できない」とよく説明されます。キャリアアップ助成金では、正社員化コースに次の2つの要件があります(有期雇用労働者等を正社員転換する場合)。

  • 正社員転換した日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、当該正社員転換を行った適用事業所において、雇用保険被保険者を解雇等事業主の都合により離職させていない事業主であること(天災その他やむを得ない理由のために事業の継続が困難となったことまたは労働者の責めに帰すべき理由によるものを除く)
  • 同じ期間内に、特定受給資格者となる離職理由のうち離職区分1Aまたは3Aに区分される離職理由により離職した者として受給資格の決定が行われたものの数を、当該事業所における転換日における雇用保険被保険者数で除した割合が6%を超えていない事業主であること(特定受給資格者として資格の決定が行われたものの数が3人以下である場合を除く)

派遣労働者を正規雇用労働者として直接雇用する場合も、同じ2要件がかかります。違いは、基準日が「直接雇用日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日まで」に変わる点だけです。

一方、賃金規定等改定コースの対象事業主要件には、この解雇要件は含まれていません。処遇改善系のコースは、「賃金規定等を3%以上増額改定して6か月以上運用したか」「定額で支給されている諸手当を減額していないか」といった取組そのものの要件で構成されています。

このため、過去に事業主都合の離職者が出ている会社でも、処遇改善系のコースなら検討できる余地があります。「解雇があったからキャリアアップ助成金は無理」と一律に諦めず、どのコースの要件かを確認してください。ただし対象労働者側には、いずれのコースでも「支給申請日において離職していない者」という条件が付きます。

キャリアアップ計画とは:提出はコース実施日の前日まで

キャリアアップ計画とは、雇用保険適用事業所ごとに作成して管轄労働局長に提出する計画書です。計画対象者、目標、期間、目標を達成するために事業主が行う取り組みなどを記載します。キャリアアップ助成金で最も多い失敗が、この計画の提出忘れです。

キャリアアップ計画書は、コース実施日の前日までに管轄労働局長へ提出する必要があります。「コース実施日の前日」が行政機関の休日(土日、国民の祝日、12月29日〜1月3日)に当たる場合は、当該休日の翌日までとされています。実施するコースに関する取組みを記載していない場合は、助成金を受給できません。

計画書を作成するときの要件は次の4つです。

  • キャリアアップ管理者を決める(雇用保険適用事業所ごと。複数事業所・労働者代表との兼任不可)
  • 3年以上5年以内の計画期間を定める(5年の期間満了後も続ける場合は、変更届ではなく新たな計画書の提出が必要)
  • 計画対象者、目標、期間、目標を達成するために事業主が行う取り組みなどを、活用するコースに沿って記載・選択する
  • 有期雇用労働者等を含む事業所における、すべての労働者の代表から意見を聴く

計画書は雇用保険適用事業所単位で作成するもので、労働者ごとの作成は不要です。内容は随時変更できます。ただし、表紙・共通事項・キャリアアップ管理者情報・計画のいずれかに変更が生じた場合は、変更届の提出が必要です。取り組むコースを追加する場合も変更届が必要で、既に提出したコース内で取組内容のみを変更する場合は不要とされています。

パンフレットも「コース実施日の1か月前など、余裕を持ってご提出ください」と案内しています。正社員転換の日程が決まってから慌てて出すより、転換や賃上げを検討し始めた時点で計画を出しておくほうが実務では安全です。

申請の流れと支給申請期間(申請期限)

申請の流れと申請期限の図解。主な項目:キャリアアップ計画を作成し、実施日の前日までに提出、就業規則等を整え、正社員転換や処遇改善の取組を実施、取組後6か月分の賃金を支払う(正社員化は3%以上の増額が必要)、賃金を支払った日の翌日から2か月以内に支給申請
図解:申請の流れと申請期限で押さえたいポイント

キャリアアップ助成金の申請は、キャリアアップ計画の提出から始まり、取組後6か月分の賃金を支払ったあとの支給申請で終わります。途中の工程は、正社員転換支援に関するコースと処遇改善支援に関するコースで異なります。次の表は、両者の流れを段階ごとに並べたものです。

段階正社員転換支援に関するコース処遇改善支援に関するコース
1キャリアアップ計画の作成・提出(実施日の前日まで)キャリアアップ計画の作成・提出(実施日の前日まで)
2就業規則等の改定(転換規定がない場合等)取組の実施(就業規則の改定等)
3就業規則等に基づく正社員転換—
4正社員転換後6か月分の賃金の支払い(転換前6か月と比較して3%以上の賃金増額が必要)取組後6か月分の賃金の支払い
5支給申請(取組後6か月の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内)支給申請(同左)

支給申請期間は、取組後6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内です。この2か月を過ぎると、要件をすべて満たしていても受け付けられません。郵送の場合は、到着日が期間内である必要があります。

計画の提出・支給申請は、窓口への持参、郵送、電子申請のいずれでも行えます。申請先は事業所の所在地を管轄する都道府県労働局です(ハローワークを通じて提出できる場合もあります)。

就業規則は、事業場の従業員に周知した日付で効力を持つため、原則、発効と施行日は同日付けとすることが明記されています。また、届出義務のある変更があったにもかかわらず、申請日までに労働基準監督署への届出がなされていない場合は、原則不支給となります。常時10人未満の事業場でも、就業規則の作成義務がないだけで、周知と日付の考え方は同じです。

令和8年度の主な変更点

令和8年度のキャリアアップ助成金の主な変更は、正社員化コースへの情報公表加算の追加と、社会保険適用時処遇改善コースの暫定措置の終了の2点です。

  • 正社員化コースに情報公表加算が追加されました。対象は、正規雇用労働者への転換等に係る所定の情報を、自ら管理するウェブサイトまたは職場情報総合サイト「しょくばらぼ」に公表した場合です。加算額は1事業所あたり20万円(大企業15万円)です。令和7年度版のパンフレット(令和7年4月1日現在)の加算は「正社員転換制度の新規規定」「多様な正社員制度の新規規定」の2つのみでした。情報公表加算は令和8年4月8日に新設され、同日以降に対象労働者を転換等する場合が対象です
  • 社会保険適用時処遇改善コースの暫定措置が終了しました。厚生労働省は「令和8年3月末までに取組を行った事業主の方が対象」としています。令和8年4月1日以降に新たに社会保険へ加入してもらい、収入増加の取組を行う場合は、短時間労働者労働時間延長支援コース(令和7年7月1日新設)の活用が案内されています。すでに取組を開始している場合は、条件付きで短時間労働者労働時間延長支援コースへ切り替えて申請できるとされています。条件は、社会保険適用時処遇改善コースの併用メニュー(3期目)または労働時間延長メニューの対象労働者であり、当該メニューの支給申請を提出していないことです

なお、パンフレットにも「年度の途中で、助成金制度の要件等が変更になる場合があります」と明記されています。取組を実施する際は、最新の要件を管轄の労働局またはハローワークに確認してください。

補助金・他の助成金との関係(併給調整)

キャリアアップ助成金は雇用保険二事業(全額事業主負担)で運営されている制度で、募集期間や採択審査のある補助金とは仕組みが異なります。要件を満たせば原則として支給される点が、補助金との最大の違いです(補助金と助成金の違い)。

一方、同一の行為等を対象として2つ以上の助成金等が申請された場合、一方しか支給されないことがあります。これを併給調整といいます。たとえば訓練を実施して正社員転換する場合、人材開発支援助成金との組み合わせ方によって支給の可否が変わります。この2制度の使い分けと併用ルートはキャリアアップ助成金と人材開発支援助成金の違い・併用ガイドで整理しています。併給の可否は厚生労働省のホームページでも確認できます。

くるみん・えるぼし等の認定は、キャリアアップ助成金の支給額そのものには影響しません。ただし、補助金の加点項目として評価される場面があります。助成金と補助金を両方視野に入れるなら、認定の取得時期も含めて逆算しておくと無駄がありません。

不正受給のペナルティ

偽りその他不正行為により本来受けることのできない助成金を受け、または受けようとした場合、助成金は不支給または支給の取消しとなります。支給決定後に発覚した場合は、返還に加えて、受給した日の翌日から返還を終了する日までの期間に対し年3%の延滞金が請求されます。さらに、返還額の20%の額が違約金として請求されます。不正受給を行った場合、5年間は雇用関係助成金を受給できません。企業名公表・刑事告訴の対象となる場合もあります。

申請代理人が不正受給に関与した場合や、不正の事実を知っていて黙認した場合には、申請代理人に返還の連帯債務が発生し、事務所の名称などが公表されます。厚生労働省は「助成対象の診断および受給額の無料査定をするといった記載の書面を一方的に送付(FAX)する、または電話により執拗に勧誘する業者」への注意も呼びかけています。

助成金の支給申請事務を代理人に委ねていたとしても、事業主名で申請がなされる以上、不正受給に該当すれば事業主も不正処分の対象になります。支援会社を使う場合の見極め方は補助金申請サポート会社の選び方にまとめました。

よくある質問

Q. パート・アルバイトを正社員にすれば必ず80万円もらえますか?

いいえ、必ずもらえるわけではありません。80万円は、中小企業が重点支援対象者に該当する有期雇用労働者を正社員転換した場合の金額で、2期(各6か月)に分けて支給されます。重点支援対象者に当たらない場合は40万円です。

また、転換後6か月の賃金を転換前6か月と比較して3%以上増額していることが必要です。キャリアアップ計画を実施日の前日までに提出していることなど、ほかの要件もすべて満たさなければ支給されません。

Q. キャリアアップ計画を出す前に正社員転換してしまいました。後から出せますか?

いいえ、転換後に提出しても、その転換分は対象になりません。キャリアアップ計画書は、コース実施日の前日までに提出する必要があるためです。ただし計画期間は3年以上5年以内で設定でき、計画提出後に行う次の取組からは対象になります。今後の転換予定分に備えて、早めに提出しておいてください。

Q. 過去に従業員を解雇したことがあります。もう申請できませんか?

コースによっては申請できます。正社員化コースでは、正社員転換した日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、事業主都合の離職があると対象外です。一方、賃金規定等改定コースの対象事業主要件には、この解雇要件がありません。転換の時期をずらす、または処遇改善系のコースを検討する、という判断ができます。個別の該当性は管轄労働局にご確認ください。

Q. 就業規則を作っていない小さな会社でも使えますか?

使える場合はありますが、取組の根拠となる規定の整備は避けられません。常時10人未満の労働者を使用する事業場の場合、労働基準監督署等に届け出た就業規則のほか、就業規則の実施について事業主の氏名等の記載と労働者代表者(有期雇用労働者等を含むその事業所すべての労働者の代表者)の氏名等を記載した申立書が添付されている就業規則でも認められます。

Q. キャリアアップ助成金の申請期限はいつまでですか?

取組後6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内です。正社員転換支援に関するコースも処遇改善支援に関するコースも、この支給申請期間は同じです。期間を過ぎると、要件をすべて満たしていても受け付けられません。郵送の場合は、到着日が期間内である必要があります。

Q. 助成金はいつ振り込まれますか?

標準的な処理期間は公表されておらず、申請内容や労働局の審査状況によって異なります。パンフレットにも「支給申請書等の内容によっては、審査に時間がかかることがあります」と記載されています。資金繰りの計画では、支給時期を確定的な入金として当て込まないことをおすすめします。

まとめ:計画の提出時期と、コースごとの要件差で決まる

  • キャリアアップ助成金は令和8年度で6コースです。正社員化コースは中小企業で1人最大80万円で、加算を含めるとさらに上乗せがあります
  • キャリアアップ計画はコース実施日の前日までに出します。ここを外すと、他の要件を完璧に満たしても受給できません
  • 事業主都合の解雇の要件は正社員化コース系のみです。処遇改善系のコースには含まれていないため、一律に諦めず、コースごとの要件を確認してください
  • 労働保険料の滞納・過去1年間の労働関係法令違反は、全コース共通の不支給事由です。取組の前に確認してください
  • 令和8年度版では、情報公表加算の追加と、社会保険適用時処遇改善コースの暫定措置終了が大きな変更点です

自社がどの制度を使えるか整理したい場合は補助金かんたん診断(無料)をご利用ください。個別のご質問はLINEでのご相談でも受け付けています。申請全体の進め方は補助金申請の流れもあわせてご覧ください。

参考(一次情報)