「補助金は会社向けで、個人事業主には関係ない」と思っていませんか。結論からお伝えすると、国の主要な補助金の多くは、個人事業主も申請できます。たとえばデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の公募要領は、対象となる中小企業・小規模事業者等を業種ごとに「〜の会社及び個人事業主」と定義しており、個人事業主は最初から対象に含まれています。

ただし「個人事業主なら誰でも・どの制度でも使える」わけではありません。従業員を1人も雇っていないと申請できない制度や、確定申告書の控えがないと書類がそろわないケースなど、個人事業主だからこそ引っかかりやすい条件があります。この記事では、申請サポート実績800件以上の経験をもとに、「使える」の根拠と「使えない」の典型パターンを、公募要領の原文にもとづいて整理します。

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結論:主要補助金は「会社及び個人事業主」が対象

デジタル化・AI導入補助金2026の公募要領(通常枠)は、交付申請の対象を業種ごとに次のように定義しています(一部抜粋)。

業種分類定義(要約。金額・人数は原文どおり)
製造業・建設業・運輸業資本金(出資総額)3億円以下の会社又は常時使用する従業員300人以下の会社及び個人事業主
サービス業(ソフトウェア業・情報処理サービス業・旅館業を除く)資本金(出資総額)5千万円以下の会社又は常時使用する従業員100人以下の会社及び個人事業主
小売業資本金(出資総額)5千万円以下の会社又は常時使用する従業員50人以下の会社及び個人事業主

個人事業主には資本金がないため、従業員数の基準で判定されます。ほとんどの個人事業主はこの基準を大きく下回るので、規模の面で対象から外れることはまずありません

さらに、公募要領には「小規模事業者」という区分もあります。商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)なら常時使用する従業員5人以下、製造業その他なら20人以下の「会社及び個人事業主」がこれに該当します。後述しますが、インボイス枠では小規模事業者に該当すると補助率が優遇される部分があり、従業員が少ない個人事業主にはむしろ有利に働く場面もあります。

このとき注意したいのが「常時使用する従業員」の数え方です。公募要領は労働基準法第20条の「予め解雇の予告を必要とする者」を従業員と定義し、会社役員及び個人事業主本人はこれに該当しないと明記しています。つまり本人1人+アルバイトという事業でも、従業員数はアルバイトの人数で数えます。

主な制度と個人事業主の扱いをまとめると次のとおりです。

制度個人事業主の扱い
デジタル化・AI導入補助金対象(従業員数の下限規定なし)
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金対象。ただし応募申請時点で従業員数0名の事業者は対象外
キャリアアップ助成金(正社員化コース)雇用保険適用事業所であれば法人・個人を問わず対象
人材開発支援助成金雇用保険適用事業所の事業主であれば対象(対象労働者は雇用保険被保険者)

先に確認:個人事業主が対象外になる典型パターン

制度選びの前に、「そもそも申請できない」パターンを確認してください。当社への相談でも、ここを飛ばして制度選びから入り、あとから申請できないと分かるケースが少なくありません。

従業員を雇っていない(1人で事業をしている)

1人で事業をしている場合でも、デジタル化・AI導入補助金のように従業員数の下限がない制度は申請を検討できます。一方で、次のような制度は使えません。

  • 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金:公募要領が「応募申請時点で従業員数0名の事業者」を対象外と定めています
  • キャリアアップ助成金・人材開発支援助成金などの雇用系助成金:雇用保険適用事業所であることが前提のため、雇用保険の対象になる従業員がいない事業所は申請できません

「人を雇ったら使える制度」はこの逆で、雇用を始めるとキャリアアップ助成金などの選択肢が一気に広がります。詳しくは補助金と助成金の違いをご覧ください。

過去に同系統の補助金の交付決定を受けている

デジタル化・AI導入補助金2026のインボイス枠(インボイス対応類型)は、公募要領2-1-2(4)で、IT導入補助金2022・2023のデジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型。2023は商流一括インボイス対応類型を含む)またはIT導入補助金2024・2025のインボイス枠の交付決定を受けた事業者を申請対象外と定めています。「前も使えたから今回も」が通用しない代表例です(詳細はインボイス枠の解説記事)。

法人成り・家族経営に関する見落とし

公募要領の「みなし同一法人」の規定には、個人事業主に関わる注意点が2つあります。

  • 過去に交付決定を受けた個人事業主が設立した法人は、同一の事業者として扱われます。法人成りしても過去の受給歴は引き継がれるという趣旨です
  • 配偶者・親子など生計を同一にしている者は、全て同一の個人として扱われます。たとえば夫婦それぞれが事業主として同じ制度に申請する場合は、この規定に該当しないか確認が必要です

確定申告をまだ一度もしていない(開業直後)

デジタル化・AI導入補助金では、個人事業主の必要書類に「税務署が受領した直近分の確定申告書の控え」が含まれ、代替書類は一切認められないと明記されています。開業したばかりで確定申告書がない場合の扱いは個別事情によるため、申請前に事務局へ確認が必要です(後述のFAQ参照)。

このほか、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条に規定する営業を営む事業者(一部例外あり)、過去1年に労働関係法令違反で送検処分を受けた事業者なども対象外です。

個人事業主の必要書類は法人より1種類多い

デジタル化・AI導入補助金の交付申請では、法人は3種類、個人事業主は4種類の書類が必要です。公募要領の原文どおりに整理します。

用途必要な書類
本人を確認するもの運転免許証(有効期限内のもの)、運転経歴証明書もしくは住民票(発行から3カ月以内のもの)
事業実態を確認するもの①税務署で発行された直近分の所得税の納税証明書(「その1」もしくは「その2」)
事業実態を確認するもの②税務署が受領した直近分の確定申告書の控え
財務状況を確認するもの所得税の青色申告決算書又は収支内訳書

つまずきやすいポイントは3つあります。

  1. 納税証明書は「納税した領収書」ではありません。税務署が発行した納税証明書「その1」または「その2」で、税目が所得税のものが必要です
  2. 確定申告書は税務署の受領が確認できるものに限られます。①「確定申告書 第一表の控え」に受付番号と受付日時が印字されている、②第一表の控えに「受信通知(メール詳細)」を添付できる、のいずれかです。税理士の印のみが押印された書類は認められません(受領が確認できない場合は、第一表の控えと「納税証明書(その2 所得金額用)」の提出で充足できます)
  3. 確定申告書は令和7年(2025年)分が原則です(やむを得ない事情がある場合は令和6年分も可)

書類全体の詳しい解説と、補助率引上げ・加点を狙う場合の追加様式は必要書類チェックリストの記事にまとめています。

また、どの制度でも共通して、申請にはGビズIDプライムが必要になるのが最近の傾向です。デジタル化・AI導入補助金でも申請要件に含まれており、公式サイトによると発行までおおむね2週間かかります。個人事業主でも取得できるので、申請を考え始めた時点で先に手続きしておくことをおすすめします(あわせてIPAの「SECURITY ACTION」宣言も要件です)。

個人事業主がまず検討したい制度

デジタル化・AI導入補助金(会計・予約・POSレジなどのIT導入)

会計ソフト・予約管理・POSレジ・受発注システムなど、業務のデジタル化に使える国の主力制度です。個人事業主の利用が多く、当社がサポートで最もよく扱う制度でもあります。

  • 通常枠:補助率1/2以内で、補助額は5万円〜150万円未満(1プロセス以上)、150万円〜450万円以下(4プロセス以上)。なお補助率が2/3以内になる特例がありますが、これは「令和6年10月から令和7年9月までの間で、当該期間における地域別最低賃金以上〜令和7年度改定の地域別最低賃金未満で雇用している従業員が全従業員の30%以上である月が3か月以上ある場合」という、従業員を雇用していることが前提の措置です。1人で事業をしている場合は対象になりません
  • インボイス枠(インボイス対応類型):会計・受発注・決済ソフトが対象で、補助額50万円以下の部分は補助率3/4以内、小規模事業者(商業・サービス業は従業員5人以下等)は4/5以内に引き上げられます。50万円超の部分は事業者規模によらず2/3以内です。PC・タブレット等(上限10万円・補助率1/2以内)やレジ・券売機(上限20万円・補助率1/2以内)のハードウェアも対象にできます

自分のケースでいくら補助されるかは、デジタル化・AI導入補助金の見積もりシミュレーターで無料で試算できます。

雇用系助成金(従業員を雇っているなら)

雇用保険に加入しているアルバイト・パートを雇っている個人事業主なら、雇用系の助成金が使えます。要件を満たす取り組み(正社員化・研修など)に対して支給され、補助金と違って予算の採択競争ではなく要件充足型なのが特徴です。

設備投資・新事業への挑戦なら大型補助金

製造設備の導入や新分野への進出など大型の投資には、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金のような大型制度も個人事業主が対象に含まれます。ただし前述のとおり応募申請時点で従業員数0名の事業者は対象外なので、1人事業の場合は申請できません。賃上げ要件など法人と同じ基本要件も課されます。

申請前に知っておく実務の注意点

補助金は後払いです。先にITツールの代金や設備費を自分で全額支払い、実績報告のあとに補助金が入金されます。個人事業主は法人より手元資金が薄いことが多いため、立て替え期間の資金繰りを先に確認してください。この点は補助金とは?の記事でも解説しています。

支払い方法にも規定があります。デジタル化・AI導入補助金では、銀行振込の場合は補助事業者本人の口座からの振込(現金払いは不可)、クレジットカードの場合は個人事業主(代表者)本人名義のカードで1回(一括)払いと定められています。家族名義のカードや分割払い・リボ払いでの支払いは認められません。事業用の口座・カードを本人名義で用意しておくのが安全です。

また、交付申請は1法人・1個人事業主あたり1申請のみです(デジタル化・AI導入補助金の場合。不採択時は次回以降の締切で再申請できます。詳しくは再申請・減点の記事)。

よくある質問

Q. 開業したばかりで確定申告をまだしていません。申請できますか?

デジタル化・AI導入補助金では、税務署が受領した直近分の確定申告書の控えが必須書類で、公募要領は「代替書類は一切認められない」と明記しています。直近分が存在しない場合の取り扱いは個別事情によるため、申請前に事務局のコールセンター(0570-666-376、受付9:30〜17:30/土日祝・年末年始を除く)への確認をおすすめします。創業期に使える制度は他にもあるので、補助金かんたん診断で選択肢を確認してみてください。

Q. フリーランス(従業員なし・1人)でも使える補助金はありますか?

あります。デジタル化・AI導入補助金には従業員数の下限規定がなく、1人で営む個人事業主も申請対象です。ただし通常枠の補助率2/3特例(最低賃金近傍の従業員の雇用が条件)のような雇用が前提の優遇は使えず、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金のように従業員0名だと申請自体ができない制度もあるため、制度ごとの確認が必要です。

Q. 副業でやっている個人事業でも申請できますか?

公募要領には専業・副業を区別する規定はなく、日本国内に補助事業の実施場所を有する個人であること、確定申告書の控えや所得税の納税証明書で事業の実態を確認できることが求められます。開業届を出して確定申告をしている事業であれば検討の余地はありますが、事業実態の判断は事務局の審査によるため、迷う場合は申請前に事務局または当社のLINE相談でご確認ください。

Q. これから法人成りする予定です。個人と法人どちらで申請すべきですか?

申請時点の事業形態で申請するのが原則です。注意点として、公募要領のみなし同一法人の規定により、過去に交付決定を受けた個人事業主が設立した法人は同一の事業者として扱われます。個人で受給してから法人成りしても「別の事業者としてもう一度」とはならないため、法人成りのタイミングと申請のタイミングは計画的に決めることをおすすめします。

Q. 補助金と助成金、個人事業主はどちらを探すべきですか?

設備・ITツールなど「モノへの投資」なら補助金、従業員の雇用・研修など「人への投資」なら助成金が基本の使い分けです。従業員がいない場合は実質的に補助金が中心になります。詳しくは補助金と助成金の違いをご覧ください。

まとめ:個人事業主は「対象かどうか」より「書類がそろうか」

  • 国の主要補助金は公募要領で「会社及び個人事業主」を対象と明記しており、個人事業主も使える
  • ただし従業員0名だと対象外の制度(新事業進出・ものづくり商業サービス補助金)や、雇用保険適用事業所が前提の助成金(キャリアアップ助成金・人材開発支援助成金)がある
  • 個人事業主の必要書類は法人より1種類多い4種類。税務署が受領した確定申告書の控え所得税の納税証明書が事業実態の証明になる
  • 支払いは本人名義の口座・カード(クレカは1回払い)。後払いなので立て替え資金の準備を
  • インボイス枠では小規模事業者(従業員5人以下等)の補助率が4/5以内に優遇される部分もあり、小さい事業がむしろ有利な場面もある

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参考(一次情報)