「会計ソフトを入れ替えたい」「AIを使った新サービスのために設備も入れたい」——IT・デジタル投資の補助金を調べると、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の2つが必ず候補に挙がります。結論から言うと、使い分けの軸は「何を買うか」と「投資規模」です。

  • 事務局に登録されたITツール(ソフトウェア・クラウド・AI)を導入するなら → デジタル化・AI導入補助金(補助額は通常枠で最大450万円)
  • 機械装置・システム構築・建物など、まとまった設備投資で新製品・新事業に取り組むなら → 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(補助上限は最大7,000万円・新事業進出枠等は補助下限750万円)

ただし、申請方式・賃上げ要件・過去の受給歴の扱いがまったく違うため、金額だけで選ぶと後で困ります。本記事では両制度の公募要領(デジタル化・AI導入補助金2026 通常枠・インボイス枠/新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 第1回)の原文にもとづいて、違いを一つずつ整理します。

比較表:2026年の大型2制度はここが違う

項目デジタル化・AI導入補助金2026新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(第1回)
何に使う事務局に登録されたITツール(ソフトウェア〔AIを含む〕・オプション・役務・ハードウェア)機械装置・システム構築費、建物費、外注費、広告宣伝・販売促進費等の設備投資を伴う新事業
補助額(代表枠)通常枠: 5万円〜450万円以下/インボイス枠(インボイス対応類型): 〜350万円革新的新製品・サービス枠: 下限100万円〜上限2,500万円(賃上げ特例で3,500万円)/新事業進出枠・グローバル枠: 下限750万円〜上限7,000万円(同9,000万円)※従業員数区分による
補助率(代表枠)通常枠: 1/2以内(条件により2/3以内)/インボイス枠: 50万円以下の部分3/4以内(小規模事業者4/5以内)・50万円超の部分2/3以内中小企業者1/2(特例2/3)、革新枠の小規模企業・小規模事業者等とグローバル枠は2/3(枠別の詳細
申請方式IT導入支援事業者との共同事業体で申請(登録済みITツールから選ぶ)単独で申請(事業計画書を電子申請システムに入力・必要に応じ口頭審査)
事業計画の数値要件通常枠は労働生産性の向上(1年後3%以上・年平均3%以上等)の3年間の事業計画付加価値額 年平均4.0%以上・一人当たり給与支給総額 年平均3.5%以上・事業場内最低賃金+30円以上の3〜5年計画
賃上げの位置づけ通常枠150万円以上は賃金引上げ計画が必須要件(未達は返還)給与支給総額・最賃水準の要件が全枠で必須(未達は返還)
締切年内に複数回の締切(確定分のみ公表・随時更新)第1回は令和8年10月30日(金)18:00

以下、実務で判断を左右するポイントを順に見ていきます。

使い分けの軸1:何を買うか(登録ITツールか、設備投資か)

デジタル化・AI導入補助金は「登録制」です。 補助対象になるITツールは、IT導入支援事業者が提供し、事務局に登録されたソフトウェア(AIを含む)・オプション・役務・ハードウェアに限られます。つまり「使いたいツールがすでに登録されているか(または支援事業者が登録するか)」が出発点で、申請もIT導入支援事業者との共同事業体で行います。会計・受発注・決済・勤怠などの業務ソフトやクラウドサービス、AI-OCR・AI会計のようなAI搭載ツールの導入はこちらが本命です。どのツールがいくらで対象になるかは、見積もりシミュレーターで目安を確認できます。

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は「事業計画審査型」です。 機械装置・システム構築費や建物費といった設備投資を軸に、新製品開発・新市場進出という「事業そのもの」を審査します。公募要領は、革新的新製品・サービス枠では機械装置・システム構築費が、新事業進出枠・グローバル枠では機械装置・システム構築費又は建物費のいずれかが、必ず補助対象経費に含まれていなければならないと定めています。パッケージソフトを1本入れたいだけの投資はこちらには向きません。

使い分けの軸2:投資規模(450万円の壁と750万円の壁)

デジタル化・AI導入補助金の通常枠は補助額5万円〜450万円以下(補助率1/2以内)です。一方、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の新事業進出枠・グローバル枠は補助下限が750万円——補助率1/2なら補助対象経費でおおむね1,500万円以上の投資が前提です(革新的新製品・サービス枠は下限100万円)。

計算例(当社による試算): 350万円のAI搭載業務システムを導入する場合、デジタル化・AI導入補助金の通常枠(補助率1/2以内・4プロセス以上)なら補助額は最大175万円です。同じ350万円の投資は、新事業進出枠では補助下限750万円に届かないため、そもそも申請の土俵に乗りません。逆に2,000万円の製造設備+専用システムという投資は通常枠の上限450万円では大部分が自己負担になるため、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金で事業計画を組む方が合理的です。

使い分けの軸3:申請の重さ(共同申請か、事業計画書+口頭審査か)

デジタル化・AI導入補助金は、IT導入支援事業者が申請マイページへの招待から実績報告・アフターフォローまで伴走する建付けで、申請者が書く分量は相対的に少なめです(それでも必要書類の準備と労働生産性の3年計画は必要です)。

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、審査項目8観点に対応した事業計画書を自社で作り込む必要があり、必要に応じて本人だけが対応できる口頭審査(コンサルタントの同席は一切不可)もあります。書き方は事業計画書の書き方【審査項目対応】で詳しく解説していますが、準備の重さは段違いです。そのぶん補助上限も大きい、という関係です。

使い分けの軸4:賃上げ要件の重さと返還リスク

両制度とも賃上げに未達だと補助金の返還があり得ますが、かかり方が違います。

  • デジタル化・AI導入補助金(通常枠): 補助額150万円〜450万円以下の申請では賃金引上げ計画の策定・表明が必須要件で、事業計画終了時点で未達(期間内に報告しなかった場合を含む)だと返還を求められます。5万円〜150万円未満なら賃上げ目標は加点扱いです(ただしIT導入補助金2022〜2025の間に交付決定を受けた事業者は必須要件になります)。150万円未満に補助額を抑えれば、賃上げの必須要件なしで申請できる構造です(詳細は賃上げ加点と返還リスク
  • 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金: 補助額にかかわらず全枠で、一人当たり給与支給総額 年平均3.5%以上と事業場内最低賃金+30円以上(毎年)が基本要件で、未達成の場合の返還規定があります。賃上げを避けて通るルートはありません

過去の受給歴:意外と「相互乗り入れ」していない

受給歴の制限は制度ごとに定められており、対象になる制度のリストが異なります。

  • 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の受給歴制限(申請締切日起点16か月以内の採択・実施中、過去3年間に交付決定合計2回以上で対象外)の対象は、事業再構築補助金・新事業進出補助金・ものづくり補助金です(16か月側の制限には本補助金自体での採択・実施中も含まれます)。IT導入補助金(デジタル化・AI導入補助金)の受給歴はこのリストに含まれていません
  • デジタル化・AI導入補助金の12カ月制限は、IT導入補助金2025の通常枠・複数社連携IT導入枠で交付決定を受けた事業者が対象で、ものづくり系の受給歴は関係ありません。ただしインボイス枠(インボイス対応類型)は、IT導入補助金2022・2023のデジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型。2023は商流一括インボイス対応類型を含む)またはIT導入補助金2024・2025のインボイス枠の交付決定を受けた事業者が申請の対象外です(公募要領2-1-2(4))。インボイス枠の高い補助率を当てにする前に、必ず自社の受給歴を確認してください

このほか、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金には応募申請時点で従業員数0名の事業者は対象外という規定もあります(対象外規定の全体は制度記事の対象外の章参照)。

つまり「IT導入補助金を使ったばかりだから、ものづくり系は無理」という思い込みは(この2制度の間では)当たりません。ただし例外が1つあります。賃上げ加点の未達です。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の減点項目には、IT導入補助金・デジタル化・AI導入補助金を含む中小企業庁所管の補助金で賃上げに関する加点を受けて採択されたのに要件を達成できなかった場合、未達の報告から18か月間、大幅に減点する規定が明記されています。デジタル化・AI導入補助金の側にも、中小企業庁所管の他補助金での賃上げ加点未達を減点する同種の規定があります(対象となる補助金のリストはそれぞれの公募要領に記載)。過去に賃上げ加点を使った事業者は、効果報告・事業化状況報告の達成状況を先に確認してください。

併用はできる?(同一経費の重複は不可)

両制度の間で「もう一方に申請してはならない」という明文の規定は、両公募要領の該当箇所(対象外事業者・申請単位)には見当たりません。ただし、次の2点が明文で定められています。

  1. 同一の補助対象経費の重複は不可。デジタル化・AI導入補助金は経費の二重計上が発覚した場合に交付決定の取消し・補助金の全額返還を求める場合があると定め、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は国の補助金と補助対象経費が重複する事業や、中小企業庁所管の補助金と同一の補助対象経費を含む事業を補助対象外としています
  2. 申請情報は事務局間で共有される。両制度とも、審査にあたって中小機構・中小企業庁所管の他補助金事務局が保有する申請・交付等に関する情報を利用すると明記しています

実務上は「ITツールはデジタル化・AI導入補助金、機械装置・建物は新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」と経費を明確に分けるのが原則です。切り分けに迷う投資計画は、LINEで無料相談でお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. AIツールの導入はどちらの補助金ですか?

事務局に登録されたAI搭載ソフトウェア・クラウドサービスの導入であれば、デジタル化・AI導入補助金が本命です(ITツールの定義に「ソフトウェア(AIを含む)」と明記されています)。AIを組み込んだ自社の新製品・新サービスを開発するための機械装置・システム構築を伴う投資なら、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の検討対象です。

Q. オーダーメイドのシステム開発はどちらで申請できますか?

デジタル化・AI導入補助金は事務局に登録されたITツールを導入する方式のため、登録外の完全オーダーメイド開発は対象にできません。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金には「機械装置・システム構築費」という経費区分があり、新事業のためのシステム構築を補助対象経費に含められます(経費の必要性・妥当性は交付審査で精査されます)。

Q. 過去にIT導入補助金を使いましたが、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金に申請できますか?

受給歴で対象外になる制限(16か月・3年2回)の対象は事業再構築補助金・新事業進出補助金・ものづくり補助金(16か月側は本補助金自体を含む)で、IT導入補助金は含まれていません。ただし、IT導入補助金で賃上げ加点を受けて未達だった場合は、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の減点項目(18か月間の大幅減点)の対象になります。ご自身の効果報告の状況とあわせてご確認ください。

Q. 両方同時に申請してもいいですか?

相互の申請を禁止する明文の規定は両公募要領に見当たりませんが、同一経費の重複計上は取消し・返還や対象外の明文規定があり、申請情報は事務局間で共有されます。経費を明確に分けたうえで、それぞれの公募要領の対象外規定・申請単位のルールを個別に確認してください。

Q. 締切はそれぞれいつですか?

デジタル化・AI導入補助金2026は年内に複数回の締切が設定され、確定している募集回のみ公表・随時更新されます(最新の日程は申請方法とスケジュール参照)。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の第1回公募は令和8年10月30日(金)18:00締切です。

まとめ

  • 登録済みITツール(ソフト・クラウド・AI)の導入 → デジタル化・AI導入補助金。通常枠は最大450万円・補助率1/2以内、インボイス枠は小規模事業者で最大4/5以内(ただしインボイス枠は過去のデジタル化基盤導入枠・インボイス枠の交付決定者が申請対象外)
  • 機械装置・建物を伴う新製品・新事業への投資 → 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金。補助上限は最大7,000万円だが、新事業進出枠等は補助下限750万円・賃上げ要件が全枠必須
  • 受給歴の対象外リストに相手制度は含まれていないが、賃上げ加点の未達は18か月の大幅減点の規定が両制度の公募要領にある
  • 併用は同一経費の重複が不可。経費を明確に分けるのが原則

自社の投資計画がどちらに乗るか、補助額がいくらになりそうかは、見積もりシミュレーター3分でわかる補助金かんたん診断で確認できます。個別のご相談はLINEで無料相談からどうぞ。当サイトには募集中の補助金・助成金を355件掲載しています(毎週自動更新)。

参考(一次情報)